パナソニック希望退職「期待していた人まで退職」の理由は、カエルとマングースから学べるPhoto:PIXTA

今年4月に発刊された全512ページの大作『進化思考――生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」』が、クリエイターのみならず、ビジネスマンの間でも話題を呼んでいる。著者の太刀川英輔氏は、慶應義塾大学で建築デザインを学んでいた学生の頃から「創造性は本当に、一部の天才しか持ち得ないものなのか?」という疑問を抱いて探求を積み重ね、「生物の進化に創造性のヒントが詰まっている」ことを見いだした。今回は生物の生態から、いまパナソニックなどで話題の大規模な希望退職によるリストラについて、進化思考的に考察を深めてみよう。

優秀な人ほど希望退職に応じるジレンマ

 こんにちは。デザインストラテジストの太刀川英輔です。生物の進化から創造性を学ぶ思考法「進化思考」を提唱しています。この観点から、先の読めないVUCA*と呼ばれる社会を生き残る創造的なイノベーションやデザインを作り出す手法を研究しています。

 まさに激動の時代ですね。この20年で世界では時価総額の高い会社の構成もがらりと変わり、世界中が成長している中で、変化を先取りできなかった日本の企業群は結果的に低成長に甘んじています。

 こうした環境下では、企業は変化のためにリストラもやむなし、となります。先日もパナソニックが大規模なリストラを発表し、割り増し退職金を最大4000万円も積み上げるという大規模な早期退職制度で、1000人超の社員が退職しました。

 しかし、同社の楠見雄規社長が10月1日の会見で、「パナが大きく変わっていくという説明が不十分だった。会社が目指す姿を明確に発信していれば、期待していた人まで退職することにはならなかった」と発言して話題になりました。変化のためのリストラと経営者は考えていたけれど、残念ながら会社の変化を担うはずの人たちこそ、先んじて抜けてしまったわけです。

 そう、実は新規事業を増やす施策と、リストラでの早期希望退職制度は、時に相反してしまうのです。それは、なぜなのか。生態学的な例も含めてお話ししてみます。

*VUCA(ブーカ):Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(あいまいさ)の頭文字を取った言葉で、状況が目まぐるしく変化し、予測が困難な状態を指す。