ひとつは、言うまでもなくエネルギー効率を上げることです。ただし問題は、これはすでに織り込み済みだということです。この100年のあいだ、エネルギー消費量は年率3パーセント増加していますが、人はつねにエネルギー効率に取り組み続けてきました。例を挙げましょう。200年前は、1時間分の照明の費用は84時間の労働に値しました。いまでは、1.5秒分の労働で1時間分の照明の費用を賄えます。

エネルギー消費は増え続ける

 蝋燭が灯油ランプになり、それが白熱灯になり、LEDに変わって、エネルギー効率は大幅に上昇しました。もうひとつの例は飛行機です。旅客機が飛びはじめて半世紀のあいだにエネルギー効率は4倍になりました。

 50年前には一人の乗客がアメリカを横断するのにかかった燃料は109ガロンでした。いまでは、最新の787型機なら24ガロンしかかかりません。これは驚異的な改善度です。劇的と言えるでしょう。

 コンピュータの処理能力はどうでしょう? コンピュータ処理効率は1兆倍になりました。世界初の商用コンピュータであるユニバックが15件の計算を処理するのにかかったエネルギーは1キロワット秒でした。最新のプロセッサなら同じエネルギーで17兆回の計算を処理できます。

 さて、効率が上がったら人間はどうするでしょう? エネルギーをさらに消費するのです。人工照明の値段が下がった結果、もっと明かりを使うようになりました。空の旅が非常に安くなった結果、みんなが旅をするようになりました。コンピュータ処理能力のコストが激減した結果、いまやスナップチャットまで手に入れたわけです。

 エネルギー需要は増大し続けるばかりです。いくらエネルギー効率が上がっても、私たちはもっともっと多くのエネルギーを使い続けるでしょう。先ほどの3パーセント成長という数字は、今後エネルギー効率が大幅に改善していくことを見込んだうえでのものです。

 資源は有限なのに需要が無限に伸びたらどうなるでしょう? 答えは簡単です。配給制にするしかありません。いまのままだとその方向に向かうほかなく、世の中がその方向に進めば、歴史上はじめて私たちの孫世代は私たちよりよい人生を送ることができなくなります。決していい方向とは言えません。

「停滞」と「成長」のどちらを選ぶか?

 ですが、幸運なことに、地球を出れば太陽系には私たちが実際に使える資源が豊富に存在します。ということは、私たちは選択できるのです。停滞と配給か? それとも活気と成長か? 選ぶのは簡単です。何を望むかは明らかでしょう。

 ただ、急がなければなりません。太陽系全体では1兆人の人口でも維持できるかもしれません。そうなれば、1000人のモーツァルトと1000人のアインシュタインが生まれるかもしれません。文明は驚くほど進化するでしょう。

 では、その未来は具体的にどんなものになるのでしょう? 1兆もの人がどこに暮らすのでしょう? プリンストン大学で物理学を研究していたジェラルド・オニール教授はこの問題を深く考え抜き、それまで誰も疑問に思わなかったことを問いました。それは「人が太陽系に進出するにあたって最適な場所は、惑星の表面か?」という問いです。

 オニール教授はこの問いに答えるべく、学生たちと研究を重ね、直感に反する意外な答えにたどりつきました。答えは「ノー」だったのです。なぜか? 彼らは数々の問題を挙げました。

 まず、惑星の表面はそれほど広くありません。最大でも現在の2倍の人口までしか維持できません。それでは小さすぎます。しかも遠すぎます。火星への往復には数年かかりますし、最適な打ち上げの機会は26か月に1回しかありません。これはロジスティクスの面で非常に深刻な問題になります。そのうえ、距離が遠すぎて地球とリアルタイムの通信ができません。光速の限界で遅れが出ます。

宇宙に「コロニー」をつくる

 もっと基本的な問題もあります。地球以外の惑星の表面は、重力が弱いということです。人間が住めるのは重力のある場所に限定されます。火星の重力は地球の3分の1です。そこでオニール教授のグループは、惑星の表面ではなく、回転による遠心力を使って擬似重力を得る人工的な居住区を思いつきました。この人工居住区は長さ数十マイルにも及ぶ巨大な建造物で、一基につき数百万人が居住できるようなものです。