このような、いわゆるスペースコロニーは、国際宇宙ステーションとはまったく違います。コロニーの内部には高速輸送手段が備えられ、農業区域も都市もあります。
それぞれのコロニーの重力がすべて同じである必要はありません。遊び専用のコロニーでは重力をゼロにして飛び回ることも可能です。国立公園をつくることもできます。快適な居住環境も確保できます。地球にある都市をまねてコロニーにつくることもできます。歴史的な都市をまねて同じようにつくってもいいでしょう。まったく新しい種類の建築物を建てることもできます。
コロニーでは気候も思いのままです。マウイ島の最高の一日を一年中味わうことができるのです。雨も降らず、嵐もなく、地震もありません。
雨風をしのぐ必要がなければ、建物はどんな構造になるでしょう? それはできてみないとわかりません。ですが、コロニーが美しいものになることは確かです。住みたがる人は多いでしょう。しかも地球から近い場所につくれば、地球に戻ることもできます。人は地球に戻りたいと思うはずですから、これは大切な点です。誰も永遠に地球を離れたくはありません。
また、コロニー間の往来も簡単なものになります。別のコロニーに住む友人や家族に会いにいったり、娯楽専用のコロニーに遊びにいくこともできます。素早く行き来できるので、エネルギーはあまり必要ありません。日帰りも可能です。(中略)
地球は「制限居住地区」になる
では、このオニール教授の人工居住地構想は、どんな未来につながるのでしょう? これは地球にとってどんな意味を持つのでしょう?
地球は制限居住地区となり、軽工業が行われる場所になるでしょう。そして、住むにも、訪れるにも、美しい場所になることでしょう。大学に行くにも、軽工業を営むにも最適な場所になります。ですが重工業や大気汚染の原因になるような工業、つまり地球に害をもたらすことはすべて、地球の外で行われるようになるのです。
そうすれば、この宝石のような奇跡の惑星を、一度傷つけてしまうともとに戻らない場所を、保護することができます。これ以外に道はありません。地球を救わなければなりませんし、孫やその孫のために活気と成長をあきらめてはいけません。どちらも手に入れることはできるはずです。
すでにインフラがあったからアマゾンは成功できた
では、誰がこの仕事をするのでしょう? 私ではありません。これほどの大きな夢を実現するには長い時間がかかります。いま学校に通っている子どもたちとその子どもたちが実現するのです。彼らが何千何万という未来の会社をつくりだし、これまでにない新たな産業を生み、エコシステム全体をつくり変えるのです。起業家が活躍し、クリエイティブな才能が解き放たれて宇宙利用の新しいアイデアが生まれるでしょう。
ですがそのようなベンチャー企業は、いまはまだ存在していません。いま現在、宇宙で面白いことをしようしても、参入コストが高すぎるので不可能です。コストが高すぎるのは宇宙にインフラが存在しないからです。
アマゾンの創業は1994年でした。アマゾンが事業を行うために必要だった社会のインフラはすべて、すでにそこにありました。荷物を運ぶための輸送インフラを、私たちがつくる必要はありませんでした。もうあったからです。もし輸送インフラを自分たちでつくるとしたら、資本が何百億ドルあっても足りなかったはずです。ですが、輸送インフラはすでにありました。アメリカ郵便公社、ドイツポスト、ロイヤルメール、UPS、フェデックスです。そのインフラの上にアマゾンを築くことができました。
決済システムも同じです。決済システムを開発し、立ち上げたのは私たちではありません。もし自力でつくるとしたら莫大な投資と数十年という時間が必要だったはずです。ですがありがたいことに、すでにクレジットカードが存在していました。
後の世代のためにインフラをつくる
コンピュータを発明したのも私たちではありません。すでにほとんどの家庭にコンピュータはありました。ゲームをやるために使っていたかもしれませんが、コンピュータがあったことには変わりありません。そのインフラはあったのです。
莫大な金額を投資して通信網を建設する必要はあったでしょうか? それもせずにすみました。AT&Tやその他、世界中の通信事業者が、長距離電話のためにグローバルな通信網を構築してくれていたからです。起業家が活躍できるのは、このようなインフラのおかげです。
オニールコロニーを建設するのは、いまの子どもたちとその子どもや孫たちです。孫世代がコロニーをつくれるよう、インフラをつくりはじめるのは私たちの世代です。私たちが宇宙への道を切り開けば、素晴らしいことが起きるでしょう。(中略)
環境が整えば、人々は思い切り創造性を開花することができます。私たちの世代が宇宙への道を開き、インフラを築けば、大勢の未来の起業家が本物の宇宙産業を創造するでしょう。
私は彼らをその気にさせたいのです。大きすぎる夢に聞こえるかもしれませんし、実際、これは大きな夢です。いずれも簡単ではありません。何もかも難しいことですが、人々の心に火をつけたいのです。ぜひ考えてみてください──大きなことも小さくはじまる、ということを。
(本原稿は、ジェフ・ベゾス『Invent & Wander』からの抜粋です)
アマゾン創業者、元CEO。宇宙飛行のコスト削減と安全性向上に取り組む宇宙開発企業、ブルーオリジン創業者。ワシントン・ポスト社オーナー。2018年、ホームレスの家族を支援する非営利団体の支援や、低所得地域の優良な幼稚園のネットワーク構築に注力するベゾス・デイワン基金を設立。1986年、プリンストン大学を電気工学とコンピューターサイエンスでサマ・カム・ラウディ(最優秀)、ファイ・ベータ・カッパ(全米優等学生友愛会)メンバーとして卒業、1999年、タイム誌「パーソン・オブ・ザ・イヤー」選出。『Invent & Wander──ジェフ・ベゾス Collected Writings』を刊行。