コロナ禍により窮地に立たされた企業は少なくない。とりわけ苦境がクローズアップされたのは飲食業界やイベント業界だ。しかし、あまり注目されないものの、間接的にダメージを受けた業界もある。たとえば、オフィス関連の商材を扱うメーカーだ。新しい生活様式の推進に伴う働き方の変容で、オフィスから人がいなくなる中、どのように事業をかじ取りしたのか。オフィス文具を多数扱うキングジムの宮本彰社長に話を聞いた。(取材・執筆/末吉陽子)
主力商品のじり貧に
コロナが追い打ち
オフィスでよく見かける、ブルーの開きと正方形のマークがついたファイル。キングジムの屋台骨を支えてきた看板商品「キングファイル」だ。他にも1980年代に大ヒットしたラベルライターの「テプラ」、累計25万台を売り上げたデジタルメモ「ポメラ」など、ビジネスに役立つ文具を次々と世に送り出してきた。
キングジムは「皆が欲しがるものよりも、熱烈に欲しがる誰かがいる商品こそヒットにつながる」という考え方のもと、ニッチな商品を開発してきた。そんな同社をけん引するのが、創業者を祖父に持つ4代目社長の宮本彰氏だ。リモートワークの推進などで、ビジネスパーソンのオフィス離れが加速したコロナ禍を、こう振り返る。
「キングジムの主力商品は『キングファイル』でした。しかし、ここ20年くらいは、ペーパーレス化などの要因で、キングファイルの売り上げは年1~2%ずつ減少。その流れはコロナ禍で勢いを増しました。さらに東南アジア各国にある自社工場がコロナで操業停止に追い込まれたり、半導体不足で『テプラ』の生産が止まったりと、いろいろな問題が起きました」(宮本社長)
ここまで聞くと惨憺(さんたん)たる状況に思えるが、悪いことばかりではなかったと、宮本社長は顔をほころばせる。なぜなのか。