年に1度、漫才で大きな話題を集める男がいる。ウーマンラッシュアワーの村本大輔だ。2013年のTHE MANZAIで優勝して以降、多数の番組に出演していたが、政治的な発言がきっかけで、最近はテレビで見ることはなくなった。そんな彼が、年に1度テレビで漫才を披露するのが「THE MANZAI」のステージだ。12月5日、今年もウーマンラッシュアワーの出演が決まった。このステージで村本大輔が、テレビの向こうに届けたい笑いとメッセージとは? テレビに出なくなって以降の活動や想いを村本大輔本人がつづった著書『おれは無関心なあなたを傷つけたい』から、そのことについて書かれた部分を抜粋して紹介する。

「僕は漫才でザリガニを水槽に入れ続ける」ウーマン村本大輔がテレビから消えた理由撮影:疋田千里

村本大輔がテレビから消えた理由

 2017年、僕はテレビから消えた。あの場所に違和感を抱いたからだ。あの場所に行くのは、子どもの頃からの夢だった。でも、捨てることにした。

 理由はこうだ。

 水槽の中で生まれたメダカは、水槽の中が自分の世界のすべてになる。しかし、もし一度でも川に住んだなら、自分のいる世界がいかにおかしいかわかる。

 僕は1ヶ月休みをとってアメリカに行きコメディクラブを回ったことがある。そこではコメディアンたちが、いま社会で起きている理不尽なことをネタにしていた。移民難民問題や人種差別問題、地球温暖化やLGBTQの問題。

 そのときに僕は比べてしまった。日本には芸人が面白いトークをするお笑い番組がたくさんある。でもそのテーマは「ポンコツの後輩の話」「タクシーの運転手がありえへんという話」「家族の話」「相方がガサツだという話」だ。僕もそういうものだと思って、そんなネタを話していた。

 アメリカで一緒にいた日本人の友達が、ロスのタクシー運転手に「アメリカのコメディは人種差別ネタが多いよね」と言った。すると運転手は「それがあるからだよ」と言った。「あるからだよ」と聞いたとき、僕は思った。

 日本にはないのか?

 そのとき僕は、ふと17歳の頃を思い出した。高校を中退して働いていた植木屋で好きな女の子の話をしたら「あの家は朝鮮人やからしゃべるな」と言われたときの違和感を。沖縄の人たちが基地を押しつけられ、工事に反対し、座り込みをしていることも思い浮かんだ。

 そのとき僕は、たまたまニュースのコメンテーターをしていたので、いろんな問題にふれる機会があった。だから気づいた。

 日本にも「ある」と。

 しかし、テレビでは”あるもの”が”ないもの”にされている。なぜだろう。

 視聴者も、出演している芸人や芸能人も、日本にそれがあることに気づいていないのか? 彼らはこの国に、声なき声があることを知らないのか? 日本ではそれらは静かに起きているのか? それは静かだから聞こえないのか、それとも聞こえないふりをしているのか。

 僕は水槽の外の世界を知ってしまった。テレビの中には持ち出されない言葉がたくさんあることに気づいた。

僕は漫才番組の5分を使って、
ザリガニを水槽の中に入れ続ける

 僕は、年に一度だけテレビで漫才をさせてもらえる。2017年に出演したとき、試しにそこでその言葉を出してみた。

 すると、テレビの仕事はなくなり、嫌いな芸人ランキングの上位に選ばれ、いままでの若いファンの子はいなくなり、街宣車にまで追いかけられた。水槽の中にザリガニでも入れられたかのように、彼らは不安になり、嫌悪を示した。それから毎年、僕はその漫才番組の5分を使って、ザリガニを水槽の中に入れ続けている。

 ザリガニの正体は”意見”だ。意見を恐れる日本人がいる。無関心な人たちに気づかれることを恐れている。「民主主義」なんてかっこいいことを言っているが、「無関心主義」のおかげで成り立っている国だ。

 無関心とは、「犠牲」を見ないことだ。誰かを下敷きにして、僕らはその上に座っているという現実に目を向けないから、僕は漫才を使い、そこに目を向けさせる。

(本原稿は、村本大輔著『おれは無関心なあなたを傷つけたい』からの抜粋です)

村本大輔(むらもと・だいすけ)

1980年生まれ。福井県おおい町出身。2008年に中川パラダイスとお笑いコンビ「ウーマンラッシュアワー」を結成。2013年に漫才コンクール第43回NHK上方漫才コンテスト、THE MANZAIともに優勝。AbemaTV「ABEMA Prime」を通じてニュースに触れ興味を持ち始めたことをきっかけに、原発や沖縄基地問題、朝鮮学校など政治・社会問題を取り上げた漫才をつくり、フジテレビ系「THE MANZAI 2017」で披露。劇場を主な活動の場にしており、積極的に全国で独演会を開催している。SNSでも積極的に発信。