だから僕は、社会問題をネタに漫才をする、本を書く

ウーマンラッシュアワー村本大輔──。沖縄の基地問題、原発、朝鮮学校についてなど、おおよそ今まで私たちが見てきた「お笑い」とはまったく違うものを、彼は舞台の上で繰り広げている。そんな彼がさまざまな地で見て、感じた“痛み”をつづったノンフィクション『おれは無関心なあなたを傷つけたい』が刊行された。「テレビに出ずに全国を回って人と話してきたのでそれを本にしました」と語るその本には、「2020年ベストワンの本」「泣きながら笑って読んだ」「この本だけは絶対に読んだほうがいい」と読者から絶賛の声が多数集まっている。今回は本書の刊行を記念して特別インタビューを実施した。どうして村本大輔は、社会問題を発信し続けるのか。その理由に迫る。(取材・構成/川代紗生、撮影/疋田千里)

透明にされている風景をリアルにしたい

――『おれは無関心なあなたを傷つけたい』というタイトル、メッセージ性が強く、とても印象的でした。村本さんが、この本で伝えたかったこととは、どんなことでしょう。

村本大輔(以下、村本) 僕は、この国の最大の悲劇は国民の「無関心」だと思っています。たとえば今、シリアで内戦が起きているんです。空爆に一般市民たちが巻き込まれている。ただ、最近はあまりテレビでそのニュースを見ないから、この前ジャーナリストの人に「ニュースで見ないですけど、もう内戦終わったんですか?」って聞いてみたんですよ。そしたら、「いや、世界が飽きただけだよ」って。もう数字が取れなくなったから、誰もカメラを向けなくなった。でも、今でも内戦は起きてるんです。

 こんなこともありました。以前、ドイツに行った女性がアンネ・フランクの家の展示を見に行って、「大変だっただろうな。今の平和な時代をアンネにも見せてあげたいよ」みたいなことを言っていた。だから僕が「今シリアで同じような状況の子どもたちが大勢いるから、シリアも大変だよ」って言ったら、「そうなんだ」って、それで話が終わったんです。

 いやいや、物語は読めるけども、現実に起きてることには目当てられへんのかい、と。100年後、すべて物語にまとめて映画にしてもらってからじゃないとお前は見られないのか。ってことは、お前は今を生きてないじゃないかって思うわけですよ。

だから僕は、社会問題をネタに漫才をする、本を書く村本大輔(むらもと・だいすけ)
1980年生まれ。福井県おおい町出身。2008年に中川パラダイスとお笑いコンビ「ウーマンラッシュアワー」を結成。2013年に漫才コンクール第43回NHK上方漫才コンテスト、THE MANZAIともに優勝。AbemaTV「ABEMA Prime」を通じてニュースに触れ興味を持ち始めたことをきっかけに、原発や沖縄基地問題、朝鮮学校など政治・社会問題を取り上げた漫才をつくり、フジテレビ系「THE MANZAI 2017」で披露。劇場を主な活動の場にしており、積極的に全国で独演会を開催している。2021年2月16日(火)、22日(月)には、東京・大阪にて独演会「Without me~おれを排除してみな? お前たちおれなしじゃこの世界はとてもつまらないだろう」を開催予定。

 代官山とか恵比寿を歩いていると、いい暮らしをしている子どもたちをいっぱい見る。でも、シリアで必死に生きてる子たちも同じ時代に生きてるんですよ。アンネ・フランクが今もいるんですよ。

 僕らは今、平和に生きて、幸せにやってるけれども、ちょうど同じ時間にシリアからやっと逃げてきた子どもたちが厳しい環境で働かされている。ネットはこんなに普及しても、ずっと世界中の人とは繋がってないような、隣の人とすら繋がってないような感じがある。

 だから、ちょっと触れるだけでもいいから、コネクトできるタイミングを増やしたいな、と思っています。この世には、そこに確実に存在するのに、ないものにされている景色がある。人たちがいる。そんな透明にされている景色を、僕はこの本で現実として突きつけてやりたいと思いましたね。