『上流思考──「問題が起こる前」に解決する新しい問題解決の思考法』が刊行された。世界150万部超の『アイデアのちから』、47週NYタイムズ・ベストセラー入りの『スイッチ!』など、数々の話題作を送り出してきたヒース兄弟のダン・ヒースが、何百もの膨大な取材によって書き上げた労作だ。刊行後、全米でWSJベストセラーとなり、佐藤優氏が「知恵と実用性に満ちた一冊」だと絶賛し、山口周氏が「いま必要なのは『上流にある原因の根絶』だ」と評する話題の書だ。私たちは、上流で「ちょっと変えればいいだけ」のことをしていないために、毎日、下流で膨大な「ムダ作業」をくりかえしている。このような不毛な状況から抜け出すには、いったいどうすればいいのか? 話題の『上流思考』から、一部を特別掲載する。
「しかたない」と思い込んでいる対象に気づく
問題を解決するために「上流」に向かうには、どうしたらいいだろう?
あなたが「しかたない」とあきらめている問題のなかに、実は解決できるものがないだろうか? それは小さな問題かもしれない。
ある女性がこんな話をしてくれた。
「手首に歩数計をつけているほど歩くことにこだわっているのに、いつも入口に近い駐車スペースを探そうと必死になっていたの。ばかみたいでしょう。いまではいちばん遠いスペースに駐車するようにしているわ。ほかの車から離れているから、『VIPスペース』って呼んでいるの。歩数を稼げるし、空きスペースを見つける面倒もなくなった。駐車場問題を永久に解決できて、ほんとにスッキリした」
テニスコーチのジェイク・スタップの問題は、彼がウィスコンシン州で運営していたサマーキャンプでのボール拾いの手間だった。ボールを回収するために何百回も腰を曲げたせいで、慢性の腰痛に悩まされていた。
そこで、何か解決策はないだろうかと考えるようになった。車の助手席にいつもテニスボールを置いておき、運転中にあれこれ解決策を考えた。マジックハンドを使って、腰を曲げずにボールを拾ったらどうか? いや、それじゃだめだ。1球ずつ拾う手間は変わらない。
「そして彼はあるとき瞑想をしながら、助手席に手を伸ばしてテニスボールを取った」と、ペイガン・ケネディが著書『発明論』(未邦訳)に書いている。「指先に触れたゴムの感触が、斬新なアイデアにつながった。金網のカゴでボールを上からギュッと押さえつければ、ゴム製のボールは金網を通り抜けてカゴに入り、出ていくことはない」
あの有名な「テニスボールホッパー」はこうして生まれた。きっかけは腰痛と苛立ちだった。スタップは個人的な問題を解決し、その後すべてのテニスプレーヤーの問題を解決した。
ケンカ腰か逃げ腰の会話
あなたは避けられるはずの人間関係の問題を、しかたがないとあきらめていないだろうか? ちょっとした上流思考が打開策を生むことがある。
「私たち夫婦は結婚25年にして共通の話題もなくなり、実のある会話をほとんどしなくなっていました」と、テキサス州フレデリックスバーグ在住のスティーヴ・ソスランドは書いている。「いざ話をしても、ケンカ腰か逃げ腰(たいていは逃げ腰)になっていました。妻はただ話をしたがっていました。でも、話し合うための基本ルールみたいなものが何もなかったんです」
親しくしていた何組かの夫婦が離婚したことを知って、2人は動揺した。
「ある朝裏庭のポーチでコーヒーを飲んでいるとき、友人たちの離婚の話になりました。『私たちもその方向に向かっているのかな』と、どちらからともなく言いました。答えは考えるまでもないように思えました。でもそこで、どうしたら離婚を避けられるかをじっくり話し合うことにしたんです。これといった方法を思いつかなかったから、翌朝も話すことにしました。その翌朝も、またその翌朝も」
2人が求めていたのは、安心して話し合える場だった。躊躇も後悔も罪悪感もなくどんな問題でも話し合える場だ。そういう会話ができる物理的な場をつくるためにジャグジーを購入し、ややこしい問題はそこで話し合うことにした。なんだかうまくいきそうな気がした。
「数年かかりましたが、こうありたいと願っていた家庭を築くことができました。もちろん、『風呂談義』用のジャグジーを裏庭のデッキに置いてね」
VIPスペース。テニスボールホッパー。風呂談義。上流思考は組織だけのものでなく、個人のものでもある。
日常生活に繰り返し起こる問題があるなら、上流へ向かおう。大昔からある問題だからといって、ひるんではいけない。古い格言にもある。
「木を植えるのにいちばんいい時期は20年前だった。その次にいい時期は、今だ」
(本稿は『上流思考──「問題が起こる前」に解決する新しい問題解決の思考法』からの抜粋です)