富士急行を興した堀内一族のワクチン担当大臣と
県知事の対立

 ネットやSNSの“ハイランドファン”の間で支持されているストーリーは、「ジェットコースターの負傷案件を利用して堀内一族を引きずり下ろしたい山梨県知事の嫌がらせに対して毅然とした態度で立ち向かっている」というものだ。

 富士急行を興したのは堀内良平氏(1870〜1944)で、その子孫の堀内一族が代々企業を引き継いでいる。堀内一族は、まさに安倍晋三氏の「安倍一族」や麻生太郎氏の「麻生一族」などと同じく、明治から続く「支配階級」だ。現在の富士急行社長である堀内光一郎氏の妻、堀内詔子ワクチン担当大臣も堀内家の国会議員としては「四代目」にあたる。

 もちろん、この一族支配を支えているのが富士急行グループであることは言うまでもない。選挙区の山梨2区は、富士急行本社をはじめ、ハイランド、ホテル、鉄道、バスなどグループ企業が集中している。そんな「堀内王国」の牙城を脅かしてきたのが他でもない、長崎幸太郎県知事だ。

 衆議院議員時代、二階俊博氏の支援を受けて山梨2区でなんと12年、14年と連続で勝利し、堀内詔子氏は比例復活で苦汁をなめてきた。そのため、「堀内王国」内で長崎氏へ向けられる憎悪は年を追うごとに膨れ上がった。怪文書が飛び交うのは毎度のことで、こんな耳を疑うような「陰謀論」までささやかれた。

「事実、実在する暴走族が長崎さんを襲撃するという噂が広まっていて、支援者から『長崎先生にボディーガードをつけたほうがいい』と勧められました」(デイリー新潮2017年11月1日) 

 17年に堀内氏が選挙区で初勝利を果たし、長崎氏は19年に知事へと転身して選挙区直接対決の構図は終わったものの、今度は「堀内王国vs山梨県」という形で“冷戦”が継続。最近では、岸田首相が二階氏を幹事長の座から引きずり下ろしたことで、二階派(長崎知事)と岸田派(堀内大臣)の「代理戦争」という要素も加わってさらに激しさを増している。

 そんな不穏な空気が漂うタイミングで、ハイランドの「安全問題」が次々と発覚すれば、長崎氏側が仕掛けた「工作」だと捉える人たちが現れるのは自然な流れだろう。

「ド・ドドンパ」で首を怪我したと訴えた女性が、SNSで笑顔で日常生活を送っている様子を投稿したところ、「さっさと死ねよ」「売名目的か金目的だろ」などとSNSで誹謗中傷されたことは有名だが、その中にこんな攻撃もあったという。

<なかには、山梨の政治問題と絡めてか『知事から金もらってるんだろ』とか。私は知事も政治家も知り合いにいませんし、そもそも山梨県民でもありません>(文春オンライン8月29日)

「堀内王国」の現実に鑑みれば、「山梨県知事の嫌がらせ」というストーリーがささやかれるのも理解できる。