子育て世代の英語教育熱は年々、高まる一方だ。昨年から小学校で英語が正式教科となり、さらに今年から始まった大学入学共通テストでは英語の出題パターンが刷新されるなど、英語学習を取り巻く環境が大きく変化しているからだ。
いまや、日本の大学ではなく海外の大学に直接進学するケースも珍しくない。そのため、子どもが学校で後れを取ったり大学受験で失敗したりしないように「家庭で英語をどう教えればいいのか」、「どうすれば英語力が伸びるのか」と悩む保護者も多いだろう。
そこで参考になるのが、元イェール大学助教授で現在は英語塾の代表を務めている斉藤淳氏の著書『ほんとうに頭がよくなる 世界最高の子ども英語』(ダイヤモンド社)だ。
本稿では、本書より一部を抜粋・編集し、英語を学ぶと子どもが「本当に賢くなる」理由をご説明する。
英語よりも先に国語の成績が上がるのはなぜ?
私が代表を務めている英語塾・JPREPでは、「英語より先に『国語』の成績が上がった!」というご指摘を、生徒の保護者のみなさんからよくいただきます。
英語塾なのに、「国語」から先に結果が出る子たちがいる――。なぜだと思いますか?(もちろん英語の成績も、あとからグッと伸びていきます……)
予告的にお答えすると、僕がこれからお伝えするメソッドが、「英語力」だけでなく、独力で学んだり考えたりする総合的な能力、いわば知力を高めるからなのです。
英語を正しく学ぶと「本当に頭のいい子」に育つ
この本を手に取った方の多くは、「うちの子どもも、英語ができるようになるといいな…」という漠然とした思いをお持ちなのだと思います。
しかし、子どもの英語力を正しく磨いていけば、「学校の成績がよくなる」とか「外国語がペラペラと流暢に話せる」といった表面的なメリット“以上のもの”が手に入ります。
もちろん、英語は単なるツールでしかありません。ただ、「本当に頭のいい子」を育てたい人にとっては、英語こそが最も確実、かつ、最も頼りになる「最強のツール」である――そんな思いでこの本を書いています。
大学の研究者から英語塾の代表へ
かく言う僕自身、「子どもの英語教育」の世界に身を投じたのは、それほど昔のことではありません。日本に戻ってくる2012年まで、僕はアメリカ・コネティカット州にあるイェール大学で研究者をしていました。
日頃はもちろん英語“で”講義をしていましたが、決して英語“を”教えていたわけではありません。僕の専門は比較政治経済学。自分で言うのもヘンですが、英語教育とほとんど(というか、まったく)無縁の世界に生きていました。
しかし、おかげさまで、日本でゼロから立ち上げた中高生向けの英語塾は、わずか4年で累計3000人以上の生徒が通うまでになっています。
いまでは、オールイングリッシュで教育を行う幼稚園、小学1~6年生が対象のキッズクラスのほか、「国語」「算数」「プログラミング」「留学指導」といったカリキュラムも充実させています。
世界標準の教え方で子どもを指導
「そんな『素人』の塾がどうして人気に? 何か秘密があるの?」とよく聞かれるのですが、じつのところ、何も特別なことはしていません。ただ、応用言語学や教育学、心理学、脳科学などの「科学的根拠」に沿った教授法、世界的に見れば“ごく当たり前のこと”を愚直に実践してきただけなのです。
公教育にしろ学習塾にしろ、この「常識」をしっかりと踏まえて授業をしているところは、驚くほどわずかしかありません。現に、大人のなかで「私、英語を話せます!」と断言できる人は、ごくひと握りではないでしょうか。
たくましく思考できる本物の知性を育てたい
僕は「子どもの英語力」だけに問題意識を持っているわけではなく、旧来型の受験エリートを養成することにも興味はありません。
これから日本や世界がどのように変化しようとも、そのなかでたくましく思考し、しなやかに生きていける本物の知性を育てたいのです。
ちょっときれいごとめいて聞こえるかもしれませんが、むしろこれこそが、いま現役で子育てをしている親たちのリアルな感覚ではないかと思います。
外国語学習は最高のプレゼント
もはや「いい大学に入れば安心」とか「英語さえできれば大丈夫」などという時代でないのは、親の世代が痛いほど実感しています。
子どもに英語を学ばせたい親御さんも、「英語がペラペラになってくれさえすれば、それでいい」などとは思っていないはずです。ましてや、わが子の「学校成績のアップ」とか「難関校への合格」だけを願っている人もいないでしょう。
そんな表面的な力よりも、今後、世界のどこでも幸せに生きられる本当の頭のよさを身につけてほしい――それが子を持つ親の本音ではないでしょうか。
そうした真っ当な願いを持つ人にとって、外国語学習の機会は、大人が子どもに授けられる最高のプレゼントだと僕は考えています。
外国語学習が脳にポジティブな影響を与える
事実、アカデミックな研究分野でも、「外国語学習の機会が、子どもの知力やIQを高める」ということが知見として蓄積されつつあります。
第二言語の習得が脳に与えるポジティブな影響については、神経科学や認知科学の分野でもエビデンスに基づいた研究が数多く提出されています。なかには、「バイリンガルは年齢を重ねても認知症を発症しにくい」という研究まであるくらいです。
「英語塾なのにまず『国語』の成績が上がる」という先ほどのエピソードからもわかるとおり、英語を“正しく”学べば、英語“以外”の力も同時に高まります。これは単に僕個人の経験などではなく、学術的な裏づけもあることなのです。
子どもだけでなく大人の英語力も高まる
一方で、「親である私が英語を話せないんだから、うちの子はムリかな……」などとあきらめている親御さんはいらっしゃいませんか?だとしたら、それは非常にもったいないことだと思います。
本書のメソッドは、読者のみなさんの英語力を問いません。なぜそんなことが可能なのかというと、この本の内容は第二言語習得(SLA:Second Language Acquisition)という学術分野で最大公約数的にわかっている原則をベースに書いてあるからです。
SLAの研究者たちが目指しているのは、言語学だけではなく、認知心理学や社会科学など、さまざまなアプローチを通じて、「人間が外国語(=第二言語)を習得するときの一般的メカニズム」を明らかにすることです。
SLAの原理はいわば、人類に共通する外国語習得の普遍的なメカニズムですから、子どもはもちろん、みなさん自身の英語力を高めるのにも役立ち得ます。大人だってあきらめる必要はまったくないのです。
少しの工夫が子どもの将来を変える
さらに、英語をやっている僕が言うのもおかしいのですが、特別なスキルも不要です。みなさんのご家庭でできることばかりですし、お子さんの英語力や知力を大きく左右するのは、むしろ環境づくりであると思っていただいたほうがいいでしょう。
とはいっても、本当に「ちょっとした工夫・きっかけ」でいいのです。それによって、お子さんの将来は間違いなく大きく変わります。
(本稿は、『ほんとうに頭がよくなる 世界最高の子ども英語』より一部を抜粋・編集したものです)