子育て世代の英語教育熱は年々、高まる一方だ。昨年から小学校で英語が正式教科となり、さらに今年から始まった大学入学共通テストでは英語の出題パターンが刷新されるなど、英語学習を取り巻く環境が大きく変化しているからだ。
いまや、日本の大学ではなく海外の大学に直接進学するケースも珍しくない。そのため、子どもが学校で後れを取ったり大学受験で失敗したりしないように「家庭で英語をどう教えればいいのか」、「どうすれば英語力が伸びるのか」と悩む保護者も多いだろう。
そこで参考になるのが、元イェール大学助教授で現在は英語塾の代表を務めている斉藤淳氏の著書『ほんとうに頭がよくなる 世界最高の子ども英語』(ダイヤモンド社)だ。
本稿では、本書より一部を抜粋・編集し、英語力が「伸びる子」と「伸び悩む子」とを分けてしまう意外な要素についてご紹介する。
生徒の英語力を確実に高められる指導法とは?
僕が代表を務めている塾・JPREPで取り入れているのは、世界の研究者たちのあいだでは「当たり前」だとされている考え方、第二言語習得(Second Language Acquisition)の理論に基づいた指導です。少し長いので、ここからはSLAという略称を使いましょう。
ごくシンプルに言えば、SLAとは、「第二言語(母語以外の言語)がどのようにして習得されるか」を科学的に研究する学問分野です。
僕たちが「外国語」を習得する際には、すでに身につけている母語の力も借りながら、人間の脳にもともと備わった「言語を身につける能力」を最大限発揮しようとします。そのメカニズムに関する知見そのものは、すぐ効果が現れる万能薬ではありませんが、この考え方に基づいた指導をすれば、生徒たちの英語力を確実に高めていけると僕は考えています。
どんな子どもであっても、英語ネイティブの親のもとで育ち、普通の教育を受ければ、やがて英語を母語として育ちますよね?それと同じように、SLAに基づいた学習を継続しさえすれば、たとえ非ネイティブであっても、英語に限らずどんな言語でもほぼ確実にマスターできます。
同じ教え方でも生徒の成長に差が出る理由とは?
とはいえ、同じ指導をしても、生徒たちの成長にはある程度の差が出ます。これはなぜだと思いますか?
いくつかの答えが考えられますが、いわゆる学力さえ高ければいいのかというと、必ずしもそうではありません。
たとえば、幼いころから音楽教室に通って音感を鍛えた子は、音声の学習効率がよく、成長スピードに差が出ることがあります。大好きなテレビゲームの攻略法を解説した英語の動画をYouTubeで見続けているうちに、劇的に発音がよくなった生徒もいます。
そうした個別的な差異はひとまず脇に置いて、英語力が伸びやすい子の共通点をあえて挙げれば、「親自身がどれくらい英語に“自信”を持っているか」が意外と深く関係しているように思えます。
もちろん、「親に英語力がないなら、子どもはあきらめるしかない」という話ではありませんのでご安心ください。どういうことかご説明しましょう。
英語塾に子どもを通わせる2パターンの保護者
JPREPの保護者には、大きく2パターンの方がいらっしゃいます。1つは、「私たち両親は、英語がからっきしダメでして……」と言って、塾に全面的に任せてくださる方。こういうお家のお子さんは、ある程度の指導を続けているだけで。自然と英語力が高まっていきます。
もう一方は、「自分は英語がそれなりにできる」と思っているお母さん・お父さんです。受験科目としての「英語」に、一定の成功体験がある方と言ってもいいかもしれません。
どちらかというと子どもに対する教育意識も高く、僕たちがどんな授業をやっているのか、どんな経歴の先生が教えているのか、本当に成績が伸びるのかといったことに厳しい目を向けています。
意外かもしれませんが、そんな方たちのお子さんは、なかなか英語力が伸びないことがあるのです。
英語が得意な親が子どもの成長を妨げてしまう理由とは?
かつて学校で「英語」が得意だったであろう親御さんたちからは、たとえば「もっと学校の教科書に沿った指導をしてほしい!」「うちの子は関係代名詞でつまずいているので、文法を重点的に教えてくださいよ!」といったリクエストを受けることがあります。
僕の塾では学校教科書と連動した授業をやっていませんし、生徒の年齢や発達段階によっては、文法学習にあまり時間を割かないこともあります。その結果、保護者のなかにはこんな心配をする方がいらっしゃるようです。
「(あれ?私が昔、学校で習った『英語』の授業とまったく違う!日本語に訳させてみても、ちゃんとわかってないみたいだし…。まずは5文型からやり直すべきじゃないかしら…。)」
そこで、英語の「お勉強」をきっちり教えてくれる別の学習塾にもこっそり通わせはじめる人もいますし、JPREPをやめてしまう人もいます。「昔取った杵柄」とばかりに、自ら家庭で文法指導をはじめたお母さんもいらっしゃいました。
こうして2つの英語学習法のあいだで板挟みとなった子は、じつはなかなかスムーズに英語力を伸ばせません。何よりかわいそうなのは、そうこうするうちに子どもが「英語嫌い」になってしまうことです。以上が、「英語が得意な親がいると、子どもの英語力が伸びづらい」の種明かしです。
親世代の英語学習法は時代遅れの可能性が高い
ここで僕が強調したかったのは、お母さん・お父さんの世代が抱く「英語学習」のイメージは、かなり時代遅れである可能性が高いということです。
なまじ「英語」科目に成功体験がある保護者ほど、年齢や時代の違いを無視したまま、つい間違った勉強法をわが子に強いてしまいがちです。
間違った方法を子どもになぞらせるのはやめるべきです。愛するわが子のためによかれと思ってやったことが、かえって子どもの才能をつぶすことになる―こんな悲劇はありませんよね。
逆に、「英語」科目が苦手だったり嫌いだったりした親は、そのイメージそのものを忘れていますから、子どもにそれを押しつけることがありません。ぜひ自信をもってはじめていただければと思います。
古い知識を捨てることが「本当に賢い子」を育てる第1歩
さて、ずけずけと失礼なことを書き立ててきましたが、すべてはスタート地点が決定的に大事だからこそです。どうかご容赦ください。
「どうすれば外国語が身につきやすいのか?」については、言語学や教育心理学、脳科学など、さまざまな研究分野から次々と知見が集まってきていて、せっかくの努力を無駄にしないための「ある程度の正解」は、第二言語習得の研究者たちにあいだでも、一定の共通見解が形成されています。
何よりも重要なのは、この学問によって解明されてきたメカニズムは、親や教師の世代が受けてきた「学校英語」とは、かなり違っているということです。文法知識をテコに和訳をしながら意味をとらえる文法訳読法は、19世紀の教授法なのです。
だからこそ、子どもが英語を正しく学ぶ(Learn)ためには、まず親たちがかつての学びを捨てる(Unlearn)ことが欠かせないのです。それが「英語を使える本当に賢い子」を育てるうえでの第一歩です。
(本稿は、『ほんとうに頭がよくなる 世界最高の子ども英語』より一部を抜粋・編集したものです)