毎日やるべきことが山積みで、頭も心もいつもごちゃごちゃ。やりたいことに時間が取れず、疲弊感ばかりが増していく……。不安を抱えつつも、どこから手をつければいいのかわからないという人は少なくないだろう。そのために有効なのが「書く」ことだ。
習慣化のプロとしてこれまで5万人を指導し、1000人以上をコーチングしてきた古川武士氏が、行き着いた最も効果的な習慣は「書く」ことだった。必要なのはノートとペンのみ。自分と向き合い、本当に大切なことに気づけば、生き方は今よりずっとシンプルになる。自分を整理するための「書くメソッド」を体系化した書籍『書く瞑想』から、一部を抜粋して特別公開する。
書くことの3つの科学的効果
「書く」ことは、今すぐできるシンプルな方法ながら、不安やストレスを抑制したり、自分の感情を可視化して客観的に自己認識したりすることができます。
グーグルでは、マインドフルネスを実践する手法として「ジャーナリング」という、思いつくままに書き続けるワークを取り入れています。
意識的な思考ではなく、自分でも気づかない深層の「感情」をすくい上げることで、自分への理解が進みます。
ぐるぐると堂々巡りしていた悩みが、「感情」に焦点を当てることで不思議なくらい解決されます。
書くことの効果は、心理学や社会学などの学術論文でも明らかになっています。
その効果はすでにあちこちで紹介されていますが、ここでは3つほど代表的なものをご紹介しましょう。
(1)ネガティブな感情の浄化効果
テキサス大学のジェームズ・ペネべーガー博士は、「エクスプレッシブ・ライティング」と題して、毎日、仕事が終わった後や寝る前に、自分の感情を20分間書き出すという実験をしました(*1)。
実験の結果明らかになったことは、メンタルが強くなり、ストレスが大幅に消えたことです。数週間から数ヵ月でうつや不安が改善し、ストレスが穏やかになる傾向もみられました。
さらに、1ヵ月で血圧が下がり、免疫力も向上したのです。
不安や緊張の原因となっている欲求や感情や衝動を、言語や行為を通じて解放させることを心理学用語でカタルシス(浄化)といいます。カタルシスにより症状が消失することをカタルシス効果といいます。
つらいことや悩み事が頭に浮かんだとき、自分のネガティブな感情を紙に書き出すだけで、心理的に効果があると証明されています。
(2)客観視による気づき効果
社会心理学者でバージニア大学の教授を務めているティモシー・ウィルソンは、「書く」という行為には、考え方のネガティブサイクルをポジティブサイクルへと変化させる力があると述べています(*2)。
結婚したカップルに生活の悩みを書くように頼むと、悩みを書いた夫婦の方が書かなかった夫婦よりも「幸せだ」と感じる度合いが増加したという結果が出ました。
ただ悩みを書くことで、幸福感が高まったのです。書くことは思考サイクルを変えてくれる効果を生みます。
普段は目には見えない感情を「文字」で可視化することで、こんなことを思っていたのかと客観視することができます。
結果、自分の感情・思考と距離が生まれて、新しい見方・とらえ方が生まれてきます。
そして自分・相手を理解し、感謝が生まれ、小さなことに幸せを実感していきます。
これが書くことでポジティブサイクルになっていく秘訣です。
(3)書くことで自ら気づくオートクライン効果
コーチングでは、自分で話した言葉で自ら気づくことをオートクラインといいます。
オートクラインとは医学用語で「自己分泌」を意味する言葉ですが、まさに書くことでも自分の内側から答えを分泌できるのです。
思っていること、感じていることを言語化することで、それまで感じなかった気持ちや、その深層にある理由に気づけます。
誰からアドバイスを受けるわけでもなく、たった1人で紙の上で言語化するだけですが、書くことが別の知性を駆動させるわけです。紙の上で「あっ、そうか!」と気づくことこそオートクライン(自己分泌)効果です。
therapeutic implications”, Behaviour Research and Therapy, Issue 6, July
1993, 539-548.
*2 Tara Parker-Pope, “Writing Your Way to Happines”, The New York Times,
January 19, 2015.
https://well.blogs.nytimes.com/2015/01/19/writing-your-way-to-happiness/
(本原稿は、『書く瞑想 1日15分、紙に書き出すと頭と心が整理される』からの抜粋です)