コピーライティングの第一人者、神田昌典氏の25年に及ぶノウハウの集大成『コピーライティング技術大全』の共著者・衣田順一氏は、大手鉄鋼メーカーの管理職だった。
衣田氏は脳性麻痺の子どもを抱えていた。その後勤めていた会社が突如合併。閉塞感と先行きが見えない状況から救い出したのがコピーライティングだった。衣田氏は「コピーライティングはプロのコピーライターだけではなく、一般人にも大いに役立つ、いやむしろ身につけておくべき必須スキルだ」という。
今回は、私たちがどのようにコピーライティングを活用すればいいのかを、衣田氏に聞いた。
コピーライティングは「アイデアが8割」
記者:前回のお話で、コピーライティングは一般人も身につけておくべき必須スキルだということでしたが、その点を詳しく聞かせてください。
衣田:はい。コピーライティングというと、多くの人は書くことがメインだとイメージするでしょう。
しかし、コピーライティングでは、純粋に書く部分のウエイトは、イメージでいうと2割程度。あとの8割は、アイデアが占めています。
記者:アイデアですか? アイデアとは「ひらめき」ということですか?
衣田:いいえ、違います。ここでいうアイデアとは、「この商品・サービスはこういうものだ」という位置づけやコンセプトのことです。
コピーライティングは、アメリカでは100年前から使われている技術ですが、当時からコピーライティングで重要なのは、言葉の表現ではなくアイデアだといわれていました。
しかし、「アイデア」というのは捉えどころがなく、実際に再現しようとしても難しい。そうなると、普通の人は使えません。そこで、神田昌典さんが25年に及ぶコピーライティングの経験から導き出したPMMという概念をもとに、コピーライティングの本質を次のように定義しました。
売れるために必要なのはアイデア。
アイデアとはPMMのこと。
PMMを伝えるために必要なのが言葉。
記者:PMMとはProduct Market Matchingのことだと、本書で解説されていますよね?
衣田:はい。つまり提供する商品・サービスの価値と市場のニーズ・ウォンツ(欲求)をピッタリと合わせることです。ここがマッチしている状態がいわゆる「刺さる」ということなのです。逆にいうと、ここがズレているとなかなか売れないのです。
マーケティングではPMF(Product Market Fit)やPSF(Problem Solution Fit)という概念がありますが、それらとは決定的に違うことで、我々独自にPMMと呼んでいます。
PMMを表現する究極の質問
記者:PMMはどのような点が違うのですか?
衣田:プロダクトとマーケットがマッチしているかということだけだと、マッチしていれば売れるし、マッチしていなければ売れないという状態を表しているにすぎません。
どうしたらプロダクトとマーケットがマッチするのかがわからないと、実際には使えません。
そこで、私たちは、次の表現を、PMMを表現する究極の質問として位置づけたのです。
「誰が、何をして、どうなった?」
「誰が」は、売りたい相手。
もっといえば、あなたの商品・サービスの価値を本当に理解してくれる人です。
「何をして」は、提供する商品・サービスのことです。
ここには価格など提供する条件(オファー)や類似のものとどう違うのか(USP)も含みます。
そして、「どうなった」は、その商品・サービスを買うとどんないいことがあるのか(ベネフィット)です。
コピーライティングは、この「誰が・何をして・どうなった?」ということを伝えるためにあるのです。
記者:「誰が、何をして、どうなった?」。これを見つけ出すことが言葉の表現より重要だということなんですね?
衣田:はい。ただ、誤解のないように言っておきますと、言葉はどうでもいいわけではありません。
どんなに素晴らしいアイデアでも、頭の中にあるだけで、人々に伝わらなければ意味がありません。
多くの人に伝えるためには言葉が必要です。売れるようにするためには、言葉の表現ではなく、アイデア=PMM=「誰が・何をして・どうなった?」を考え直す必要があるのです。
記者:PMMを根本的に見直すことが売れる秘訣ということになりますか?
衣田:そのとおりです。これが「売れる」ということの核心です。
さらに大事なのはここからです。
PMMを考えることは、すなわち、自分が扱う商品・サービス、もっといえば自分自身が提供できる価値は何だろうかということを考えることでもあるのです。
また、その商品・サービスは、類似のものと何が違うのか?
そして、その価値を一番理解してくれるのはどんな人なのかを考えることに繋がるのです。
自分自身の中に売れる要素を見つけ出す
記者:なるほど。今の話は、何か、自分自身の中に売れる要素を見つけ出すことなのかと思いましたが。
衣田:まさに、ここがすべての人にコピーライティングが必要な理由です。
コピーライティングを学ぶことは、自分自身の価値を探索することなので、神田昌典のもとには、自分でビジネスを持っている人がたくさん学びに訪れるわけです。
皆さんが今まで積み重ねてきたスキルや経験の価値を、どうしたらもっと高めることができるのか?
価値が高まるというのは、すなわちお金になるということです。
記者:なるほど。コピーライティングをそういうふうに使うことで、今扱っている商品・サービスだけでなく、自分自身を売れるようにできるんですね。
衣田:はい。だから、コピーライティングはすべての人に役に立つし、身につけておくべきスキルなのです。
次回は、今でも使われている第一次世界大戦前のコピーライティング技術について紹介しましょう。
PMMを含めた『コピーライティング技術大全』の活用法を解説したセミナー動画をご覧いただけます。
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