書くと不安がなくなる。自分自身が整理される。そう経験的に感じている人も多いだろう。だが、それはなぜか、どういう書き方が効果的なのかを知っている人は少ない。不安な時代こそ、知識やスキルを焦って付け足すのではなく、自分を深く知ることが大切だ。答えを自分の外にではなく、内に見出すこと。そのために有効なのが「書く」ことだ。
習慣化のプロとしてこれまで5万人を指導し、1000人以上をコーチングしてきた古川武士氏が、行き着いた最も効果的な習慣は「書く」ことだった。必要なのはノートとペンのみ。自分と向き合い、本当に大切なことに気づけば、生き方は今よりずっとシンプルになる。自分を整理するための「書くメソッド」を体系化した書籍『書く瞑想』から、一部を抜粋して特別公開する。

【ノートで自己対話】習慣化のプロが教える自分を深く知る書き方Photo: Adobe Stock

「セルフトーク」で思いつくままに書き出す

「書く瞑想」を行う際、まず「放電ログ」「充電ログ」を書き出します。

 これは箇条書きスタイルで、「気持ちを下げたもの(放電)」、「気持ちを上げたもの(充電)」を思いつく限り網羅的に書き出すことが狙いです。

 ログを出した後は、「セルフトーク」をしていきます。

 こちらは「瞑想的」に思いつくままに書いていくことです。

 放電・充電ログが意識的であったのに対して、セルフトークは、無意識的、連想的、対話的に書いていきます。

 また、ログが網羅的に「広く拾い出す」ものならば、セルフトークは1つの出来事や感情から「深く対話」していくことに重きを置いています。

 こうすることで、表面的な気分や感情ではなく、より深層の感情に気づけます。広く、浅くではなく1つの感情や出来事を深掘りしていくことで自己対話していけるのです。

 説明だけだとわかりづらいと思うので、例を見ていきましょう。

放電のセルフトーク

 放電ログには不安、焦り、気がかり、モヤモヤ、恐怖、葛藤などの感情が書かれていると思います。

 セルフトークでは「今、何が一番嫌なのか、つらいのか?」と問いかけながら、心に浮かぶ言葉を文章で書いていきます。

 この質問から湧いてくることを発起点にして、つぶやくように、独り言、つまりセルフトークを書いていきます。

「今、何が一番嫌なのか、つらいのか?」

なんか、忙しいのに達成感がない。忙殺されている。プロジェクトが多いし、やっていることは好きだけど、1つ1つが味わえていないかも。達成感もないけど、それと同じぐらい嫌なのは焦りかもしれない。いや、何かが漏れている恐怖がある。一体何が漏れているのだろう。タスク管理がおろそかになっているから、ぐるぐる思考でモヤモヤしているのかもしれない。

 この例であれば、達成感がないという気持ちから始まっていますが、忙殺の苦しさ、焦り、そして最後は何か決定的なものを忘れているのではないかという「漏れへの恐怖」が湧き出てきました。

 これらは心を静かに、感情を巡らすだけでは湧いてこないことです。

 書くことで、深い感情に気づけたと言えます。そしてそれが自分を苦しめている正体だったりします。

 その正体、真の論点に気づかない限り、心を整えるのは難しいのです。

 心の表面で揺れ動く要因をログで見たならば、今度はセルフトークでより深いところにある感情を探っていきましょう。

充電のセルフトーク

 では、同様に充電のセルフトークも見ていきましょう。

 充実感を感じるときの要素も、人それぞれ違います。

 自分にとって好き、ワクワクする、楽しい、高揚感がある、没頭感がある、という出来事とその突き動かした感情を観察していきます。

「今、一番良いと感じていることは何か?」

仲間とのつながりを深く感じている。プロジェクトメンバーとは同じ情熱を感じているし、これが本当に豊かだ。共創することが自分にとって重要。使命が同じならば、結果は急がなくてもじっくり共に成長していけばいい。改めて、深い想いを共有できる人とつながっていることに満足感を感じている。今度の会議では、より目標を共有していくことでもっと加速していける!!

 この例であれば、仲間との「つながり」が出てきています。

 ともすれば普段、忙殺される日常と焦りの中で、当たり前すぎてスルーされがちな人間関係に恵まれていること、志が同じ人同士で働けていることへの感謝が、セルフトークによってより深く感じられます。

「感謝の心が高まれば高まるほど、それに正比例して幸福感が高まっていく」と言ったのは、パナソニック創業者、松下幸之助氏ですが、幸福に関する研究でも「感謝」こそ心に豊かさの水を注ぎ込んでくれる感情であることは明確になっています。

 充電のセルフトークは感謝だけを押し付けるものではありませんが、このように今あるもので豊かさを感じられる心の習慣を持つことができれば、これに勝るものはありません。

 本音の言葉は、完成された形で湧いてくるわけではなく、最初の言葉が呼び水となって、徐々に深い部分から湧き上がってきます。

 深い価値観や本音、大切にしていることを引き出すのが難しいのは、これらが無意識下に眠っているものであり、あまり表面に出てこないからです。

 意識的、思考的に生きている限り、本音の自分にはアクセスしにくいものです。

 それを引き出していく作業が深い対話であり、セルフトークです。

(本原稿は、『書く瞑想 1日15分、紙に書き出すと頭と心が整理される』からの抜粋です)