方法1 「似た仕事」に目を向ける

 まず一つ目、自分の軸を横軸方向に揺らす方法です。

 これは、「いま自分がしている仕事と似た仕事を探してみる」というものです。

 細尾が東京大学大学院情報学環の筧康明研究室やZOZOテクノロジーズと一緒に行なっている試みがあります。「環境と織物」をテーマに、織物に新しい機能を賦与することを試みるプロジェクトです。

 一二〇〇年間営まれてきた、西陣織の究極の美の根底には、「多様な素材を織り込める」という優れた技術があります。

 西陣織は太さや色、素材や質感がそれぞれ異なる、いろいろな種類の糸によって織り上げられます。箔など、糸以外の素材さえも織り込むことができます。

 その軸を自覚した上で、生体センサーや有機ELディスプレイなど、同時代の最先端テクノロジーに目を向けたところから、妄想のヒントが生まれました。

 多様な素材を織り込むことに長けた西陣織の技術を用いて、最先端のマテリアルを織物に織り込む。それができれば、センサーで反応したり、自ら発光したりといった、かつてない織物が実現できるのではないか。

 生体センサーや有機ELディスプレイなどを織り込むだけではなく、このプロジェクトでは、温度や湿度といった環境情報を織物の中に織り込むことにも取り組んでいます。身体に近い場所にある織物というメディアから、環境を考える試みでもあるのです。

「多様な素材を織り込む」という西陣織の軸を大切にしながら、同時代の最先端技術や新素材に目を向けることで、妄想が起動し始めたプロジェクトの一つをご紹介しました。

 やはり「共通性のある仕事」には可能性が眠っているのです。

細尾真孝(Masataka Hosoo)
株式会社細尾 代表取締役社長
MITメディアラボ ディレクターズフェロー、一般社団法人GO ON 代表理事
株式会社ポーラ・オルビス ホールディングス 外部技術顧問
1978年生まれ。1688年から続く西陣織の老舗、細尾12代目。大学卒業後、音楽活動を経て、大手ジュエリーメーカーに入社。退社後、フィレンツェに留学。2008年に細尾入社。西陣織の技術を活用した革新的なテキスタイルを海外に向けて展開。ディオール、シャネル、エルメス、カルティエの店舗やザ・リッツ・カールトンなどの5つ星ホテルに供給するなど、唯一無二のアートテキスタイルとして、世界のトップメゾンから高い支持を受けている。また、デヴィッド・リンチやテレジータ・フェルナンデスらアーティストとのコラボレーションも積極的に行う2012年より京都の伝統工芸を担う同世代の後継者によるプロジェクト「GO ON」を結成。国内外で伝統工芸を広める活動を行う。2019年ハーバード・ビジネス・パブリッシング「Innovating Tradition at Hosoo」のケーススタディーとして掲載。2020年「The New York Times」にて特集。テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」「ガイアの夜明け」でも紹介。日経ビジネス「2014年日本の主役100人」、WWD「ネクストリーダー 2019」選出。Milano Design Award2017 ベストストーリーテリング賞(イタリア)、iF Design Award 2021(ドイツ)、Red Dot Design Award 2021(ドイツ)受賞。9月15日に初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』を上梓。