1200年続く京都の伝統工芸・西陣織の織物(テキスタイル)が、ディオールやシャネル、エルメス、カルティエなど、世界の一流ブランドの店舗で、その内装に使われているのをご存じだろうか。衰退する西陣織マーケットに危機感を抱き、いち早く海外マーケットの開拓に成功した先駆者。それが西陣織の老舗「細尾」12代目経営者の細尾真孝氏だ。その海外マーケット開拓の経緯は、ハーバードのケーススタディーとしても取り上げられるなど、いま世界から注目を集めている元ミュージシャンという異色の経営者。そんな細尾氏の初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』がダイヤモンド社から発売された。閉塞する今の時代に、経営者やビジネスパーソンは何を拠り所にして、どう行動すればいいのか? 同書の中にはこれからの時代を切り拓くヒントが散りばめられている。同書発刊を記念してそのエッセンスをお届けする本連載。好評のバックナンバーはこちらからどうぞ。

固定観念を打破する「逆転の発想」がイノベーションを生むPhoto: Adobe Stock

作業員のファッションで、
競馬場の貴族のファッションを倒す

 固定観念にとらわれず、「逆転の発想」をすることで大きな革新を生み出す。これはファッションの世界でも、歴史上繰り返されてきた方法です。

 たとえばシャネルがそうです。

 今や誰もが知るハイブランドであるシャネルですが、ブランドが出発した一九一〇年頃のヨーロッパは、きらびやかでコルセットで身体を締め付けるような女性服がよしとされていた時代でした。

 そこへシャネルの創業者であるココ・シャネルは、黒い衣服や、ジャージなどの動きやすい素材を使った機能的、かつおしゃれなデザインを打ち出しました。

「働く女性」のための新しいスタイルを提示し、ファッションのメインストリームに対して違いを生み出したのです。まさに逆転の発想です。

 ココ・シャネルは「厩舎(きゅうしゃ)の作業員のファッションで、競馬場の貴族のファッションを倒す」と言っていたほどでした。