冬季は脳内出血など脳卒中が発症しやすい季節だ。
特に入浴時は肌寒い浴室で血管がキュッと縮まり血圧が上昇するうえに、早く温まろうと熱めの湯に漬かると交感神経が優位になり急激に血圧が上昇。血管が破れる危険性が増す。
すでに高血圧、糖尿病など血管ボロボロの危険因子を持っている場合は、こうした「トリガーイベント」を減らす工夫が必要だ。
アイルランド・ゴールウェイ大学の研究グループは、世界32カ国が参加する「INTER STROKE」のデータを解析。参加国の施設に急性脳卒中で入院し、72時間以内に本人や代理人が回答できた1万3462例(平均年齢62.2歳、男性59.6%)について「トリガーイベント」を調べている。
対象者は普段の生活習慣、持病の有無、服薬状況などとともに、脳卒中発症前の1時間と、比較対象のために、前日の同じ時間帯に(1)怒っていた、もしくは感情的に動揺していたか?(2)きつい身体活動(肉体労働など)をしていたか?という質問に回答した。
その結果、脳卒中急性期を脱した11人に1人が発症前の1時間に「怒りや感情的な動揺」を経験し、20人に1人が「きつい身体活動」を行っていたことが判明した。
「怒りや動揺」は、脳梗塞など全ての脳卒中発作と関係し、特に脳内出血――脳の深部に血流を送る細い動脈の破綻で生じるタイプに影響があり、脳内出血リスク増のおよそ30%に寄与するようだ。
また「きつい身体活動」は、その後の1時間の脳内出血リスク増のおよそ60%に寄与していた。適度な運動は脳・心血管の健康維持に欠かせないが、何事もやり過ぎは禁物、ということだろう。
興味深いのはうつ病の既往があると「怒りや動揺」によるリスクが低いこと。研究者は「ストレスフルで“動揺慣れ”しているためだろう」と推測している。言い換えれば、普段から穏やかで感情の起伏への耐性がない人ほど影響が大きいわけだ。
ちなみに「怒りや動揺」は心筋梗塞のトリガーイベントとしても有名。この季節の入浴前は、心穏やかに、が肝心である。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)