新春にあたり、急激な変化の中にある物流業界の今後について、カーゴニュースの5人の記者が語り合った。超ロングで熱気あふれる議論の中から、ダイヤモンド編集部が厳選して抜粋し、4回にわたって連載する。1回目は、トラックドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限される「2024年問題」からスタート。これは物流業界の働き方改革であると同時に、中小零細企業の淘汰再編を促す「ふるい落とし」にもなると指摘する。その後、「モーダルシフトを担うJR貨物はどうあるべきか」について提言。最後に「物流業界が人材を獲得するための根本的な施策」を語る。(カーゴニュース)
岸田内閣の「成長」と「分配」は
ゾンビ企業をむやみに延命させ
成長企業への労働力の移転を妨げる懸念
A トラック運賃をめぐる問題に話題を移したい。コロナ影響による輸送需要の減少で、運賃の低迷が続いている。
B 「2024年問題」をめぐっては、改正貨物自動車運送事業法が成立した18年12月当時とは少し外部環境が変わってきている。ひとつはコロナの影響で輸送需要がやや減少していること。もうひとつは軽油価格の高騰。足元ではコストは上がっているのに、需給のひっ迫が緩み、コスト上昇分を転嫁しにくい状況になっている。
ただ、もっと根本的な話として、私はトラック運賃が上がらない理由は「構造問題」だと思う。6万社超の事業者による過当競争が蔓延し、営業損益は07年以降ほとんどの年で赤字になっているなど経営基盤が脆弱な零細事業者が多い。それゆえ価格交渉力がなく、需給バランスが悪くなるとすぐに値崩れが起き、標準的な運賃という“官製値上げ”の効果が弱い。直近では軽油の高騰だけではなく最低賃金の引き上げなどコスト上昇の圧力が強まっているが、仕入れ価格と販売価格の上昇ギャップが大きく、価格転嫁困難業種であることがわかる。
岸田内閣が「成長」と「分配」を掲げているが、どちらかというと「分配」政策のカラーが強い。下請けの保護を重視し、規制改革や成長戦略に乏しい印象がある。法人税を納めていない赤字の中小企業にも、賃上げした場合は補助金を増やすことも検討されるなど、赤字企業の救済策も打ち出している。財政上の問題もさることながら、トラック業界も含めてゾンビ企業をむやみに延命させ、成長企業への労働力の移転を妨げる懸念がある。