「働き方改革」はもう古い!ディップ急成長のカギは「働きがい改革」Photo:PIXTA

「バイトル」「はたらこねっと」などを展開し、またたく間に人材サービス大手へと急成長を遂げたディップ。その躍進劇をインサイダーの視点から綴った著書が『フィロソフィー経営 ロイヤリティが生んだディップ急成長のドラマ』だ。本書を読むと、同社の「社員の働きがい」に重きを置いた経営が社員を最速で成長させ、その集積としての同社の急成長にもつながっていることが見て取れる。(一橋大学ビジネススクール客員教授 名和高司)

 前回記事「ディップの急成長に見る『パーパス(志)が拓く未来』」で解説したように、ディップの経営哲学は「夢(dream)×アイデア(idea)×情熱(passion)」である。そして、これは京セラ創業者の稲盛和夫氏、日本電産創業者の永守重信氏の経営哲学と見事に符合している。

「働き方改革」から「働きがい改革」へ

「夢」と「アイデア」はさておき、「情熱(passion)」には違和感があるだろうか?「仕事中毒」や「過重労働」が問題視される中で、仕事への熱い思いは、いかにも時代遅れのようにとらえられがちだ。

 しかし、そのような「ゆるい」風潮こそ、「失われた30年」を生み出した元凶の一つである。政府が旗をふっている「働き方改革」は、個人の成長機会を奪う「ゆるブラック企業」を量産してしまっている。

「盛守経営」は、このような平成の失敗とは無縁である。稲盛氏も「厚生労働省などが労働時間の短縮を目指していることも問題」とクギを刺す。そして「これは人間を堕落させてしまう」と警鐘を鳴らす(『稲盛和夫の哲学』より)。

 そもそも最近の「ワーク・ライフ・バランス」という考え方そのものが、19世紀のマルクス的労働観を引きずってしまっている。仕事を通じて社会に価値を生み出すことが、真の「働きがい」をもたらすはずだ。コロナ禍は「ワーク」と「ライフ」の一体化を加速させている。「ワーク・イン・ライフ」、そして「ライフ・イン・ワーク」こそ、「志本主義時代」の新しい価値観となる。アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾス氏は、これを「ワーク・ライフ・インテグレーション」と呼んだ。そして、そこに求められるのは、「働き方改革」ではなく、「働きがい改革」なのである。

 創業以来、「従業員満足度ナンバーワンの会社」を目指すディップも、社員の「働きがい」を経営のトッププライオリティに置いている。本書によれば、冨田CEOは、次のような行動規範を「ファウンダーズスピリット」としているという。

・ピンチはチャンス
・チャレンジし続ける
・最後まで諦めない
・期待を超える
・仕事、人生を楽しむ
・自らがdipを創る

 これらの行動規範が社員たちの心に刻まれ、日々の仕事に体現されていくことで、多くのユーザー、クライアントのロイヤリティが生まれる。そして、それが結果的に、高い売り上げ・利益成長を生んできたのだという。