「バイトル」「はたらこねっと」などを展開し、またたく間に人材サービス大手へと急成長を遂げたディップ。その躍進劇をインサイダーの視点から綴った『フィロソフィー経営 ロイヤリティが生んだディップ急成長のドラマ』には、京セラ創業者の稲盛和夫氏、日本電産創業者の永守重信氏の経営哲学とも共通する考え方が語られている。(一橋大学ビジネススクール客員教授 名和高司)
今、「パーパス」が世界のキーワードとなっている。日本では「存在理由」と訳されることが多いが、筆者は「志」と読み替えている。それは古来、日本人が大切にしてきた信念だ。先が見えない時代、志こそが未来を拓く羅針盤となってくれるはずだ。
日本は「失われた30年」からの出口を探している。しかし、その間、驚異的な成長を遂げた日本企業が、わずかながら存在する。
ディップは、そのうちの1社だ。求人サイト「バイトル」「はたらこねっと」「ナースではたらこ」などを運営する企業である。本書は、そのディップの元COO(最高執行責任者)大友常世氏が、同社の躍進劇を、インサイダーの視点から物語ったものである。
このドラマ仕立てのストーリーの中から、「志」を基軸とした成功の方程式が浮かび上がってくる。それは、コロナ禍の暗雲の先に、次世代の成長を模索する日本企業と日本人にとって、多くの学びとなるはずだ。
ディップの「10X成長」
シリコンバレーでは、幾何級数的な成長を「10X成長」と呼ぶ。10倍、すなわち、1桁以上の成長という意味だ。GAFAは、そのような「10X企業」の代表例である。
ディップも、スケールは小さいながら、まさにそのような急成長を遂げていた企業だ。1997年に、当時30歳の冨田英揮氏(現在もCEO)が無一文から創業。2005年にマザーズ上場、2013年に東証1部上場を果たし、2020年には売上高464億円、営業利益146億円を達成。2018年にはアベノミクスが始まって5年半の株価上昇率で、東証ランキング1位を獲得。時価総額は57.6倍、まさに「10X企業」である。
人材サービス業界は、リクルートホールディングスを筆頭に、熾烈な競争が繰り広げられている。その中で、ディップはいかにして成長を続けることができたのか。