「右派野党」は「新しい社会を創りたい人たち」か

「右派野党」への期待は、昨年11月の衆院選における民意が示したことではないだろうか。衆院選で立憲民主党・共産党など左派の「野党共闘」が敗北した一方で、健闘したのが日本維新の会と国民民主党だったからだ(第288回)。

 総選挙後、維新の会と国民民主党が、共闘する場面が目立っている。また、国民民主党は地域政党「都民ファースト」との連携強化に関する協議を開始した。これらの動きは、まだ萌芽でしかないし、これらの党が合流するには、さまざまな過去の遺恨がある。しかし、自民党の右側に位置する野党の台頭は、自然な流れだと考えている。

 話題を、「元に戻りたい人たちvs新しい社会を創りたい人たち」に戻したい。政界の今後の対立軸も、この方向性に沿っている。従来の「保守vsリベラル」という対立軸は、今後は意味をなさなくなる。まず、安全保障・経済安全保障を政争の具にする余裕は、現在の日本を取り巻く環境にはない。

 国内政策については、保守は「貧しき者には分け与えよ」、リベラルは「労働者の権利拡大」と真逆だが、実際の政策はほとんど変わらなくなる。50~60年代の欧州福祉国家の「コンセンサス政治」のような状況になっていく。

 そして、自民党・公明党の連立与党があり、それを立憲民主党・社民党・共産党・れいわ新選組が補完するのが一つのグループになる。政策は、平等・格差の是正を軸に、弱者・高齢者・マイノリティー・女性の権利向上、社会民主主義的な雇用政策・社会保障・福祉の拡充、教育無償化、外国人労働者の拡大、斜陽産業の利益を守る公共事業などである。

 それは、「社会安定党」とでも呼ぶべきグループだ。それが、社会の多数派を形成しており、与党となる。

 一方、デジタル化、IT化、スーパーグローバリゼーションを進めたいグループがある。SNSで個人として活動する人たち、起業家、スタートアップ企業、IT企業などである。

 彼らは、市場での競争に勝ち抜いて富を得ようと考える。基本的に政治への関心は薄い。しかし、政治の動きが社会の進化から遅れすぎると、邪魔になるので、政治を「Too Little」「Too Late」「Too Old」と厳しく批判する政党があれば、それを支持する。

政治で顕在化する「コロナ前に戻りたい派」vs「新しい社会を創りたい派」の戦い本連載の著者、上久保誠人氏の単著本が発売されています。『逆説の地政学:「常識」と「非常識」が逆転した国際政治を英国が真ん中の世界地図で読み解く』(晃洋書房)

 これは、「デジタル・イノベーション党」と呼ぶべきグループだ。日本でいえば、いささか頼りないが、日本維新の会、国民民主党などだ。普段は政治と関わらない少数派が支持するので、野党である。

「デジタル・イノベーション党」だけで、社会が進歩すればいいわけではない。富の集中や、IT・デジタル技術を悪用した情報統制や人権侵害を行う「デジタル権威主義」を台頭させるリスクがある。「社会安定党」にはそれを厳しくチェックする役割がある。

 この「社会安定党vsデジタル・イノベーション党」こそが、日本のみならず、世界の民主主義国における対立軸となっていくだろう。従来「新自由主義」が主流で、それに「社会民主主義」が対抗する形だった世界の潮流が、コロナ禍を機に真逆となったことを意味している。世界に起きつつある従来の常識を逆転させるような大きな変革を、正確に捉える必要があるだろう。