10月31日、衆議院議員総選挙が投開票された。自民党は、改選前から15議席減らしたが、単独過半数を維持し、自公連立政権は継続することとなった。一方、「野党共闘」は共闘の効果はほとんどなく、改選前より議席を減らすという失敗に終わった。今回の選挙の特徴は、どの党にも「風」が吹かなかったこと。しかし、わかったことは自民党の底力、そして日本維新の会の可能性だ。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)
チャンスを逃した野党、自民党は無風の選挙で強さ発揮
今回の総選挙は、野党共闘にとって千載一遇の好機となるはずだった。
「新型コロナ対策」が評価されなかったり、東京五輪・パラリンピックの開催が批判されたり(本連載第274回)で、菅義偉・前政権の支持率は急落し、自民党は補選・首長選で連敗していた(第284回)。
しかし、自民党は総裁選を行い、「疑似政権交代」と呼ばれる、さまざまな候補者による多様な政策論争を展開して、支持率を回復させた。そして、岸田文雄氏を「選挙の顔」である総理・総裁に選んだ(第286回)。
岸田首相は、選挙戦に入ると、安全保障・経済安全保障関連を除けば、次々と政策志向を「左旋回」させた(第287回)。アベノミクスで広がったとされる格差を是正し、個人レベルに利益を再配分する「新しい資本主義」などを打ち出した。
それは、野党との政策の「違い」を明確にするのではなく、野党の政策にかぶせて、野党の存在を消してしまうという、自民党の伝統的な戦い方を踏襲したものだ。
私は、海外メディアの取材で、「自民党とは、英国の二大政党『保守党』と『労働党』を合わせた特徴を持つ政党だ」と説明した(毎日新聞『英メディア、「自民党支配」に着目 岸田氏の人柄など分析』)。
自民党は、保守政党とされながら、社会民主主義的な政策を次々と実現してきた、世界に類を見ない「包括政党(キャッチ・オール・パーティー)」だ。古くは、1960年代の国民皆保険・皆年金制度、70年代の環境政策、福祉政策、近年では教育無償化、全方位社会保障など、他の民主主義国ならば、保守政党から社会民主主義政党(労働党)に政権交代した際に実現した政策を、政権交代せず実現した。野党の政策アイデアを奪い予算を付けて実現することで、支持を拡大し長期政権を築いてきたのだ。
その強さは、「世界最強の自由民主主義政党」と言っても過言ではない(第218回)。政党の真の強さとは、「風が吹かないとき」にどれくらい踏みとどまれるかで決まる。自民党は議席を減らしたものの、自民党らしさを発揮することで、その強さを示したのではないだろうか。