「わたしの悩みを聞いて」からの泥沼化を回避する“他人の問題4分類”
「ソープへ行け」。もう30年以上も前、若者の人生相談に北方謙三さんがバシバシ答える『ホットドッグ・プレス』の人気連載がありました。今でも雑誌やweb媒体における「人生相談」は人気コンテンツで、「AERA dot.」で連載された「鴻上尚史のほがらか人生相談」も、ベストセラーになった『夢をかなえるゾウ』や『嫌われる勇気』も、形を変えた人生相談の本だったと言えます。でも、いざ「相談される側」になると難しい。ズバッと即答なんて芸の域。頼まれて意見を求められたはずなのに、相手が傷ついたり機嫌を損ねたり。関係が深い人であるほど言葉を選ぶし、長話をずっと聞いているのも疲れるし……。
「人と人が幸せになる会話」を根本から問い直す『会って、話すこと。』という本があります。その中で著者の田中泰延さんは、「悩み相談は、内容を切り分けて考えよう」と提案します。「なんか悩み相談されがちなんだよな」という人、ご参考に。(構成:編集部/今野良介)
「ただ聞いてほしいんだよ」
よく会話術の本には「相談されたら傾聴と共感が大切」と書いてあるが、聴き続けるのも、「わかる、わかるよ」などと言い続けるのも疲れる。
わたしのよく行く店の主人は、客から悩み相談をされることが多いのだが、大抵は料理の手を動かしながら「大変やなあ」「難しいお話でんなあ」と片付けている。客は満足そうだ。しかしそれは店の利益につながる営利活動の一つである。
延々と長話してくるような人にも困る。相手はただ聞いてほしいんだよ、それで安心するんだよ、という。一理あるが、それでも2時間長話された日にはスマホのバッテリーも落ちてしまう。あなたの人生の時間と電気代をそんなに使う必要はないのだ。
『会って、話すこと。』という本を書く中でわかったのだが、「人に悩みを延々聞かされることがあるから会話は苦手なのだ」と言う人は結構多い。親しいからといって、他人の問題に指図してもいいことはあまりない。大抵の場合、相手は「アドバイスはいらない」と思いつつ、悩みの聞き役を探してうろうろしていることが多いのだ。
具体的だともっといらない。善意で解決策を提示したのに喧嘩になることさえある。
とはいえ、親しい人には相談を持ちかけられることもあるだろう。聞かざるを得ない時もある。
悩みを聞かざるを得ない場合、内容を切り分けて考えよう。他人の問題に対する捉え方は4つある。
① あなたが助けられる問題
② あなたが助けなくてはいけない問題
③ あなたが助けられない問題
④ あなたが助けてはいけない問題
たとえば、①あなたが助けられる問題 ②あなたが助けなくてはいけない問題、については自分の立場や状況もある。
「困っているから100円貸してくれ」には応じられても、「100万円貸してくれ」だったら気持ちは同じでも応じることは難しいだろう。
③あなたが助けられない問題 ④あなたが助けてはいけない問題、の場合は、何もしてはいけない。
というか、何かしたら状況は悪くなる。
あなたが他人の問題を、また他人があなたの問題を、ズバリ解決できるケースは少ない。
その前提でいれば、あの面倒な「相談」というものへの心構えができる。
ちなみに、「なんでも話してくれ。今日はお前の相談に乗るよ」などと言う人は、じつは思いっきり自分の話をしたい人だったり、説教をかましたいだけのである場合があるから注意だ。
自分のことは話さなくていい。相手のことも聞き出さなくていい。
『会って、話すこと。』は、毎日の会話の中で、こんなことに苦しんでいる人に読んでもらいたい。
・ 自分のことをわかってもらおうとして苦しんでいる人
・ 他人のことをわかろうとして苦しんでいる人
・ 他人を説得したいと思って苦しんでいる人
・ 他人を思い通りに動かしたいと思って苦しんでいる人
・ 他人にもっと好かれたいと思って苦しんでいる人
・ 会話でもっと学びを得たいと思って苦しんでいる人
・ 会話でもっと笑いたいと思って苦しんでいる人
興味もないのに相手の話を聞くふりをしたり、
聞いてもいないのに相槌を打ったり、
理解してもいないのに相手の言葉を反復したり、
そんな会話術が人間同士が正直に向かい合う態度といえるだろうか。
あるいは、興味本位に相手に根掘り葉掘り質問を浴びせたり、
自分を理解させたくて心の内面を相手にぶちまける、
そんな姿勢が向かい合う二人を幸せにするだろうか。
また、上手な世渡りのために相手を持ち上げたり、
自分の利益のために相手に「イエス」と言わせる、
そんなテクニックが誠実だと言えるだろうか。
自分のことは話さなくていい。
相手のことも聞き出さなくていい。
ただ、お互いの「外」にあるものに目線を合わせ、
同じ方を向くことができれば、
誰とだって会話は続くし、楽しくなる。
2020年から非日常になってしまった「会って、話す」を問い直し、
幸せな人間関係を築く技術と考え方を伝えます。
【目次】
はじめに 大阪人の会話に「オチ」と「ツッコミ」はない 《田中泰延》
序章 なぜ「書く本」の次に「話す本」をつくったのか?
・この本は、前の本と密接に関連している 《田中泰延》
・おじさん同士の会話に、だれが興味あるのか 《今野良介》
第1章 なにを話すか
ダイアローグ1 「わたしの話、聞いてます?」 《田中泰延 × 今野良介》
その1 相手はあなたに興味がない
その2 あなたも相手に興味はない
その3 わたしのことではなく、あなたのことでもなく、「外部のこと」を話そう
その4 「おもしろい会話」のベースは「知識」にある
会話術コラム① とにかく話が飛ぶ浅生鴨さん
第2章 どう話すか(とっかかり編)
ダイアローグ2 「ちがうやろ!」 《田中泰延 × 今野良介》
その1 「関係ありそうな、なさそうなこと」を話そう
その2 「ボケ」は現実世界への「仮説」の提示
その3 「ツッコミ」は「マウンティング」である
その4 審査員になるな
その5 会話に「結論」はいらない
その6 「知らんけど」の効用
会話術コラム② 困った時はこけてみろ ~ 岸本くんの教え ~
第3章 どう話すか(めくるめく編)
ダイアローグ3 「ビジネス書なんですけど」 《田中泰延 × 今野良介》
その1 「他人の発言にどう返したか」が、今のあなた
その2 言葉は「細部」が大事
その3 人間は会話すると、必ず傷つく
その4 行為より、言葉のほうが重い
その5 エトスなき会話は虚しい
会話術コラム③ 会話術の本、その素晴らしきデタラメ世界
第4章 だれと話すか
ダイアローグ4 「わたしのこと、好きですか?」 《田中泰延 × 今野良介》
その1 「機嫌よく生きる」大切さ
その2 会話の始め方、終わらせ方
その3 おかしい人のおかしさは「距離の取り方」のおかしさ
その4 悩み相談には種類がある
その5 自分が楽しくなるリアクションをしよう
会話術コラム④ 好きという言葉は、最悪です
第5章 なぜわたしたちは、会って話をするのか?
ダイアローグ5 「失敗談を聞かせてください」 《田中泰延 × 今野良介》
その1 オンラインはなにがダメなのか
その2 「書く」より先に「話す」があった
その3 「出会い」とは「仕入れ」が他人と響き合った時
その4 吐露ということ
その5 違う人と、同じものを見る
ダイアローグ6 「また会いましょう」 《田中泰延 × 今野良介》
おわりに
・廃れない本 《今野良介》
・「わたし」と「あなた」の間に「風景」がある 《田中泰延》