「知らんけど」の絶大効果。大阪ひと筋50年ベストセラーライター堂々語る【書籍オンライン編集部セレクション】
「知らんけど」。東京でお過ごしの皆さまも、この言葉を聞く機会は多いだろう。無責任発言の象徴のように思われている節すらある。ところがどっこいである。よっこい庄一である。餅は餅屋である。関西弁の真髄は関西人に語ってもらおう。2021年、予定調和的な、アルゴリズム最適化的な、人を思い通りに動かそうとする狭苦しい会話テクニックではなく、人と人が幸せになるコミュニケーションを『会って、話すこと。』という本で提唱した生粋の関西人・田中泰延氏が、「知らんけど」の真の効用を伝える。ぜひ活用されたい。(構成:編集部/今野良介 初出:2022年1月11日)
「きみ、だれやねん。」
人間はどうしても意見を求められたり、なにかについて見解を発表しなければならない局面がある。
それは往々にして独善的な断言になったり、議論に発展してしまう場合がある。
そんなときに活用して欲しいのが「知らんけど」である。
「異常気象の理由? 太陽の黒点反応が活発になってるからちゃうの? 知らんけど」
「なんで不況かわかるか? 円高で輸出産業が打撃を受けてるからや。知らんけど」
「知らんけど」は、関西人がよく使う終止形である。
これは、自己の発言に対する責任逃れではない。
むしろ非常に自覚的で責任のある姿勢なのだ。
前者は、自分が天文学者かどうか考えてみるといい。後者は、自分は経済評論家かどうか思い出してみるといい。
とりあえず自分の知っているかぎりの情報を総合してわかったような結論を述べてはみたが、実際のところはよく知らない。「知らんけど」は、そんな自分を客観的に捉えて立場を表明する言葉である。
人間の知性とは、知っていることをひけらかすことではない。むしろ、何を知らないかを自覚した「無知の知」こそ賢者の姿勢といえるだろう。
たいして知りもしないのに、専門外の分野について他人にご高説を垂れる行為は、SNS時代になって特に顕著になった。
生半可な知識を振り回さず、あまり知らない自分を、正直に相手に差し出そう。
この「知らんけど」は、わかったようなことを言ってしまった時だけではなく、ボケをかました時の終止形にも使える万能な言葉である。知らんけど。
自分のことは話さなくていい。相手のことも聞き出さなくていい。
『会って、話すこと。』は、毎日の会話の中で、こんなことに苦しんでいる人に読んでもらいたい。
・ 自分のことをわかってもらおうとして苦しんでいる人
・ 他人のことをわかろうとして苦しんでいる人
・ 他人を説得したいと思って苦しんでいる人
・ 他人を思い通りに動かしたいと思って苦しんでいる人
・ 他人にもっと好かれたいと思って苦しんでいる人
・ 会話でもっと学びを得たいと思って苦しんでいる人
・ 会話でもっと笑いたいと思って苦しんでいる人
興味もないのに相手の話を聞くふりをしたり、
聞いてもいないのに相槌を打ったり、
理解してもいないのに相手の言葉を反復したり、
そんな会話術が人間同士が正直に向かい合う態度といえるだろうか。
あるいは、興味本位に相手に根掘り葉掘り質問を浴びせたり、
自分を理解させたくて心の内面を相手にぶちまける、
そんな姿勢が向かい合う二人を幸せにするだろうか。
また、上手な世渡りのために相手を持ち上げたり、
自分の利益のために相手に「イエス」と言わせる、
そんなテクニックが誠実だと言えるだろうか。
自分のことは話さなくていい。
相手のことも聞き出さなくていい。
ただ、お互いの「外」にあるものに目線を合わせ、
同じ方を向くことができれば、
誰とだって会話は続くし、楽しくなる。
2020年から非日常になってしまった「会って、話す」を問い直し、
幸せな人間関係を築く技術と考え方を伝えます。
【目次】
はじめに 大阪人の会話に「オチ」と「ツッコミ」はない 《田中泰延》
序章 なぜ「書く本」の次に「話す本」をつくったのか?
・この本は、前の本と密接に関連している 《田中泰延》
・おじさん同士の会話に、だれが興味あるのか 《今野良介》
第1章 なにを話すか
ダイアローグ1 「わたしの話、聞いてます?」 《田中泰延 × 今野良介》
その1 相手はあなたに興味がない
その2 あなたも相手に興味はない
その3 わたしのことではなく、あなたのことでもなく、「外部のこと」を話そう
その4 「おもしろい会話」のベースは「知識」にある
会話術コラム① とにかく話が飛ぶ浅生鴨さん
第2章 どう話すか(とっかかり編)
ダイアローグ2 「ちがうやろ!」 《田中泰延 × 今野良介》
その1 「関係ありそうな、なさそうなこと」を話そう
その2 「ボケ」は現実世界への「仮説」の提示
その3 「ツッコミ」は「マウンティング」である
その4 審査員になるな
その5 会話に「結論」はいらない
その6 「知らんけど」の効用
会話術コラム② 困った時はこけてみろ ~ 岸本くんの教え ~
第3章 どう話すか(めくるめく編)
ダイアローグ3 「ビジネス書なんですけど」 《田中泰延 × 今野良介》
その1 「他人の発言にどう返したか」が、今のあなた
その2 言葉は「細部」が大事
その3 人間は会話すると、必ず傷つく
その4 行為より、言葉のほうが重い
その5 エトスなき会話は虚しい
会話術コラム③ 会話術の本、その素晴らしきデタラメ世界
第4章 だれと話すか
ダイアローグ4 「わたしのこと、好きですか?」 《田中泰延 × 今野良介》
その1 「機嫌よく生きる」大切さ
その2 会話の始め方、終わらせ方
その3 おかしい人のおかしさは「距離の取り方」のおかしさ
その4 悩み相談には種類がある
その5 自分が楽しくなるリアクションをしよう
会話術コラム④ 好きという言葉は、最悪です
第5章 なぜわたしたちは、会って話をするのか?
ダイアローグ5 「失敗談を聞かせてください」 《田中泰延 × 今野良介》
その1 オンラインはなにがダメなのか
その2 「書く」より先に「話す」があった
その3 「出会い」とは「仕入れ」が他人と響き合った時
その4 吐露ということ
その5 違う人と、同じものを見る
ダイアローグ6 「また会いましょう」 《田中泰延 × 今野良介》
おわりに
・廃れない本 《今野良介》
・「わたし」と「あなた」の間に「風景」がある 《田中泰延》