『レゴ 競争にも模倣にも負けない世界一ブランドの育て方』ではデンマーク創業玩具メーカー、レゴの強さの真髄を描きました。本連載ではレゴを知るキーパーソンに強さの理由を解説してもらいます。今回登場するのは、レゴを活用したワークショップを社内外で導入しているソフトバンクのみなさん。子ども向けの玩具として成長してきたレゴだが、今ではグーグルやNASAなど、ビジネスシーンの第一線でも活用されている。レゴを活用すると職場でどんな化学反応が起こるのでしょうか。社内外のワークショップでレゴブロックを活用した「レゴシリアスプレイ」を実践するソフトバンクのチームのみなさんに話を聞きました。(聞き手は蛯谷敏)
■ソフトバンク取材1回目>「ソフトバンクが心理的安全性を高めるツールにレゴブロックを使うワケ」
成功の第一歩は認識をそろえることから
ソフトバンク法人事業統括法人プロダクト&事業戦略本部 デジタルソリューション開発第1統括部 ソリューション開発第2部の平安俊紀部長(以下、平安) インタビューの最初にお伝えした「働き方改革」に対する取り組み(詳細は「ソフトバンクが心理的安全性を高めるツールにレゴブロックを使うワケ」)で感じたのは、議論をする上で、共通認識をそろえることの重要性です。言葉に対する互いの解釈が違っていると実のある議論は難しい。我々のビジネスでは、提案した事業企画が、お客さまのビジョンに沿っている必要があるのですが、その解釈を間違えると結局、いい提案をしても採用はされません。
――事業企画の立案にあたっては、認識を合わせることが大切になのですね。
ソフトバンクカスタマーサクセス企画運営課の石原亮さん(以下、石原) 「それは当たり前だろう」と思うかもしれません。ですが今の時代、互いに共通認識を持つことが本当に難しくなってきているんです。世代によって働き方に対する前提は違っていますし、ダイバーシティも進んで、性別や国籍など、バックグラウンドの異なる人が組織の中で働いています。ひと昔前なら、飲み会で交流を深めたり、本音を語り合ったりすることができました。しかしこういうご時世ですし、今ではそれも難しい。「レゴシリアスプレイ」は、飲み会に代わる方法としても、効果的だと思っています。
平安 さらに言えば、これは組織内だけの話ではなく、会社同士の関係でも同じことが言えると思います。ソフトバンクはこれまで通信が事業領域の中心でしたが、今では事業領域も文化も異なる企業や組織とのコラボレーションが増えています。以前なら、競合他社といえば通信会社を想定していればよかったかもしれません。しかし現在は、業界の垣根を超えた競争が当たり前になっています。
自分たちとは異なる価値観の会社と事業を一緒につくろうとした場合、カギになるのは、議論の前提をいかに合わせるかに尽きるんです。自分と相手の文化や価値観を理解した上で、新しいビジョンやアイデアを作っていく必要があります。
――そう考えたときに、「レゴシリアスプレイ」のような共通言語でコミュニケーションをするツールが大切になるわけですね。
石原 人間は自分の頭で考えていることを、すぐ形にはできません。ですから一度、手を動かして、レゴ作品に置き換えることで、自分自身と切り離して、何が伝えたいのかを形にするわけです。
もやもやした概念や考えが、ブロックというモデルを通して形になり、そこから対話できるようになっていく。そして、対話を繰り返していくうちに、自分自身の中に眠っていた考えやアイデアに気づいていくんです。これは、「レゴシリアスプレイ」のプロセスそのものだと思っています。
これからの働き方を考えたとき、恐らく我々一人ひとりに求められるコミュニケーション能力は、変化していくと思っています。会話力や議論をリードしていく力ももちろん大切ですが、それと同じように、対話する力や伝える力も重要になっていく。働き方が変わり、働き方の価値観が多様化する時代には、互いの共通の価値観を見出す重要性が高まっていくと感じています。
それは、多くの人が、これまで学んでこなかったスキルかも知れません。その意味でも、「レゴシリアスプレイ」はそれを体験する良いツールだと思います。自分が考えたこともないお題について、レゴでモデルを作って、それを相手に理解してもらえるように伝えていく。これからの時代に求められる大切なスキルを鍛えるという点でも、おもしろい手段だと言えるでしょう。