『レゴ 競争にも模倣にも負けない世界一ブランドの育て方』ではデンマーク創業玩具メーカー、レゴの強さの真髄を描きました。本連載ではレゴを知るキーパーソンに強さの理由を解説してもらいます。今回登場するのは、レゴを活用したワークショップを社内外で導入しているソフトバンクのみなさん。子ども向けの玩具として成長してきたレゴだが、今ではグーグルやNASAなど、ビジネスシーンの第一線でも活用されている。レゴを活用すると職場でどんな化学反応が起こるのでしょうか。社内外のワークショップでレゴブロックを活用した「レゴシリアスプレイ」を実践するソフトバンクのチームのみなさんに話を聞きました。(聞き手は蛯谷敏)

ソフトバンクが心理的安全性を高めるツールにレゴブロックを使うワケソフトバンク法人事業統括法人プロダクト&事業戦略本部 デジタルソリューション開発第1統括部 ソリューション開発第2部の平安俊紀部長(中央)と、ソフトバンク法人プロダクト&事業戦略本部 法人サービス施策推進統括部 デジタルソリューション施策推進部 デジタルシフト企画推進課の大池一生課長(右)、写真提供:ソフトバンク

――ソフトバンクでは、「レゴシリアスプレイ」をうまく活用していると聞きます。一体、どんな経緯で導入を決めたのでしょうか。

ソフトバンク法人事業統括法人プロダクト&事業戦略本部 デジタルソリューション開発第1統括部 ソリューション開発第2部の平安俊紀部長(以下、平安) きっかけは数年前、「働き方改革」がはやっていたころまでさかのぼります。当時は、働き方を変えようという機運こそ高まっていましたが、実際に企業が何を、どう取り組めばいいのか、明確な方法が見えていなかったんです。ほかの企業を見回しても、成功しているケースはなかなか見つかりませんでした。

 冷静に考えれば当たり前の話です。そもそも「働き方改革」という言葉の解釈が人によって全然、違っていましたから。例えば、営業の最前線で働く人なら、「働き方改革」とは生産効率をいかに上げるかという話になるでしょうし、子育て中の母親であれば、どこでも働ける環境のことを指すでしょう。あるいは人事部門なら、人事評価の改革というイメージを持っているかもしれません。

 誰もが「働き方改革」が大切だとは思っているのだけれど、実際に個々が思い描くものは異なっている。そんなケースが少なくありませんでした。

 明確な定義がない“流行語”の施策を実践するには、まずは、みんなの前提をそろえる必要があります。そのための手法を探していた結果、たどりついたのが、「レゴシリアスプレイ」だったんです。

――当時、デザイン思考など、ほかの手法も試したそうですね。

ソフトバンク法人プロダクト&事業戦略本部 法人サービス施策推進統括部 デジタルソリューション施策推進部 デジタルシフト企画推進課の大池一生課長(以下、大池) デザイン思考そのものはすばらしいメソッドです。しかし我々としては、文字だけでコミュニケーションをすることにハードルを感じました。

 デザイン思考では、付せん紙に文字を書くのですが、その時点で、字が汚い人は、気後れしてなかなか提案が出てきません。そして、アイデアを出すにしても、結局はたくさん発言する人の声ばかりが採用されがちになってしまいます。

平安 自分が本当に伝えたいことって、言葉だけで伝えようとすると難しいというケースもありますよね。

 例えば、私が5分で話した内容と30秒で話した内容だと、聞いている人は、5分で話した内容の方が伝えたいことなんだろうと思いがちです。でも、実際は違うかもしれません。説明することが多いから5分かかっただけであって、本当に伝えたいことは30秒で言い切っていたのかもしれません。ところが、こうした機微は、初対面のコミュニケーションでは、なかなか伝わりません。

「レゴシリアスプレイ」はこういった問題をクリアにしてくれます。「レゴシリアスプレイ」では、まずレゴブロックでモデルを作り、それについて、参加した全員が説明をしていきます。誰が何を作っても、得手・不得手の差が出ない上に、全員が自分の作ったモデルについて話す機会を与えられる。自分の作ったモデルについて何度も説明できるので、「この人が本当に言いたかったことが何か」という発見が、比較的できやすいんです。

ソフトバンクが心理的安全性を高めるツールにレゴブロックを使うワケ写真提供:ソフトバンク

ソフトバンクカスタマーサクセス企画運営課の石原亮さん(以下、石原) 立体的なモデルを作る作業も、レゴでは圧倒的に簡単です。ブロックではなく、粘土などを使うタイプの研修もありますが、レゴブロックの方が作品を作り上げる時間は圧倒的に短くなります。レゴを使えばたった5分で作れるようなモデルも、粘土だとそうはいきませんから。

――自分の考えを形にする際の生産性や効率性でも、「レゴシリアスプレイ」が優れていると判断したわけですね。

ソフトバンクデジタルソリューション施策推進部 カスタマーサクセス企画運営課の仲田ゆい課長(以下、仲田) さらに付け加えると、参加者の目ではなく、自作のブロック作品を見ながら話すという点もメリットだと思います。一般に、ディスカッションやブレーンストーミングの場では、話す内容以上に、相手の顔色や声色、容姿など、「目」から入ってくる情報に影響を受けやすいと言われています。

 一方、「レゴシリアスプレイ」では、「相手の顔を見るのではなく、ブロックを見て説明をしてください」と指示されます。話を聞く人も、「話している人の目ではなく、ブロックだけを見てください」と指示されます。ですから参加者は、自分の作品についてだけ、語っていればいいんです。すると不思議と、肩書の違う人たちが、フラットに自分の考えを話し、議論ができるようになるんです。

平安 課題についてレゴでモデルを作り、みんなに発表して、復唱していく。ワークショップの作業そのものはシンプルですが、これを繰り返していくことで、相手の意見がすっと自分の頭にも入ってきます。さらに、自分も意見を重ねていきやすい。作品をいろいろな角度から眺めてみることで、違った見え方を発見することもあります。

 これらは、「言葉」だけをベースにしたワークショップでは、なかなか実現できないと思います。

――レゴブロックそのものは玩具です。「玩具で遊んでいるだけでは」という否定的な意見もあったのではないでしょうか。

平安 当初はありましたね(笑)。ブロックを整理していただけでも、「あの人たちは何をやっているんだ」と話題になっていたようです。なにせ一日中、ブロックをいじっていますから。

石原 一方で、「レゴシリアスプレイ」は体感しなければ、腹落ちして理解できないという側面があります。玩具であることは間違いないのですが、同時に、自分たちの考えやアイデンティティを解放するツールだという認識は、実際に試してみないと分かりません。ですから、社内外問わず、体験会やワークショップなどを展開しています。
(2022年1月21日公開予定の記事に続く)