書籍『小さな資本で起業して10年経った経営者が考えてみた3つのこと』は、著者の紺乃一郎氏が会社経営を行うなかで考え、実践してきたアイデアを紹介する一冊だ。さまざまな読書の過程で出合った古今東西の偉大な先人たちの思考やアイデアをヒントに、「経営の原理原則」「リーダーシップ」「イノベーション」という3つの要素について語られている。小さな資本で起業し、悩みながらも会社を成長させ続けてきた著者が考える企業経営とは?

企業の間接部門にとって顧客とは誰かPhoto:photo AC

間接部門の成果について

 企業の直接部門が取り扱う商品やサービスには、対価を支払うお客さまが必ず存在します。それらの商品やサービスが支払いに見合わないと判断された場合、お客さまは別の商品、あるいはサービスを選択します。

 このように市場では極めてシンプルな競争原理が働いていますが、間接部門の場合は、この因果関係が見えにくいのです。ただしドラッカーは、「それは予算部門でなくても、どこも一緒である」といっています。たしかに、直接部門であっても同じようなところはあります。

 たとえば、生活必需品を扱う会社などの場合、競合会社が多数あり、自分の会社の商品でなくともその機能を満たす商品が複数あるため、これに該当するでしょう。「商品を売る」という目的や「今期いくら売るのか」という成果は数値化されますが、セールストークの工夫など、その売り方や「どうしたら自社の商品をお客さまが買ってくださるのか」という点についても、数値的・具体的で明確な答えなどありません。

 この意味で、間接部門の弁解の面があるというドラッカーの指摘は妥当だといえるでしょう。

間接部門と顧客の関係

 では、間接部門とお客さまとの関係はどうでしょうか。

 実は間接部門は、潜在的に「私たちのお客さまは予算をつける人である」という考えに陥る傾向があります。この場合の予算をつける人とは、たいていの場合、経営者であり予算部門のトップです。

 つまり、間接部門は自分たちの予算の原資を稼いでいるはずの直接部門、すなわち本来のお客さまに対して「価値あるサービスである」と認められる仕事とは違ったベクトルで仕事をするようになるということです。

 そして、間接部門の仕事にはベンチマークする相手が社内には存在しません。社内だけ見ていても比較対象がないので、間接部門として良いサービスなのか、悪いサービスなのかは明らかにならないのです。

 これらが存在するのは、社外の企業、すなわちアウトソーシングをサービスとする企業です。

 たとえば、給与計算を外部にアウトソーシングしている企業は多いでしょう。これを自社の社員に行わせたらコスト高になることは明らかです。

 同様に、予算部門の社員の生産性は、常に外部との比較で妥当性を明らかにすべきです。仕事は、その対価を支払っている「本来のお客さま」が評価をすることが健全なのです。