書籍『小さな資本で起業して10年経った経営者が考えてみた3つのこと』は、著者の紺乃一郎氏が会社経営を行うなかで考え、実践してきたアイデアを紹介する一冊だ。さまざまな読書の過程で出合った古今東西の偉大な先人たちの思考やアイデアをヒントに、「経営の原理原則」「リーダーシップ」「イノベーション」という3つの要素について語られている。小さな資本で起業し、悩みながらも会社を成長させ続けてきた著者が考える企業経営とは?
孫子に学ぶ ~競合との戦略分析としての五事七計
『孫子』は2000年以上も最高の兵法書として読み継がれている古典ですが、現代の経営においても応用できることがたくさんあります。
その中でも「五事七計」は、戦争以前の戦力分析の指標を教えるもので、そこには「戦う前に勝敗がわかる」と書かれています。
〈現代語訳〉孫子はいう。戦争とは国家の大事である。〔国民の〕死活がきまるところで、〔国家の〕存亡のわかれ道であるから、よくよく熟慮せねばならぬ。それゆえ、五つの事がらではかり考え、〔七つの〕目算で比べあわせて、その時の実情を求めるのである。(『新訂 孫子』岩波文庫、2000年)
引用元を私なりに解釈すると、以下のようになります。
五事とは、第一は道、第二は天、第三は地、第四は将、第五は法である。
「道」とは、国民の心を統治者と同意させることである。
「天」とは、陰陽、寒暑、時制(気温や季節)と、これに従う行動のことである。
「地」とは、地形の高低、戦場の広狭、距離の遠近、地形の険易、地勢の死生のことである。
「将」とは、才智、信頼、仁慈、勇気、威厳などの将軍が備える能力のことである。
「法」とは、部隊編成や指揮権を定めた軍法のことである。
およそこれら五つのことは、将軍たる者は誰でも知ってはいるが、それを深く理解している者は勝ち、深く理解していないものは勝てない。それゆえ、深い理解を得たものは、七つの目算(七計)で比べ合わせてその時の実情を求めるのである。
すなわち、
「君主」は、いずれが人心を得ているか、
「将軍」は、いずれが有能であるか、
「天と地」がもたらす状況は、いずれに有利であるか、
「法令」は、いずれが厳守されているか、
「軍隊」は、いずれが強いか(兵力数)、
「兵士」は、いずれがよく訓練されているか、
「賞罰」は、いずれが公明に行われているか、
わたしは、これらのことによって、戦う前に勝敗を知るのである。(七計)
この「五事七計」によって「戦う前に勝敗を知る」ことができるというわけです。競合との戦力分析に充分な効果があることは、長い歴史が証明済みです。ぜひ自身の経営実態と照らし合わせてみることをおすすめします。