2003年、東京都内で義務教育初の民間人校長として杉並区立和田中学校校長に就任した藤原和博さん。和田中学では、クリティカルシンキングによって正解が1つではない世の中の問題を考える[よのなか]科を取り入れ、地域の人々や大学生が中心となって学習支援や部活動を行える地域本部を作ったり、土曜日に補習授業を行ったりと、学校のあり方を大きく変えていった。その改革の背景にあったのは、藤原さんが“敵”と語る「正解主義、前例主義、事なかれ主義」を壊すという思いだ。では、今の日本をダメにしてきた「正解主義、前例主義、事なかれ主義」とは一体何なのだろうか。そして閉塞感漂う日本を救うには、どのような教育に転換すればよいか。常に教育改革の先頭を走ってきた藤原和博さんに前編、後編に渡って新しい教育への思いを聞く。

“一億総中流”の時代は終わった
未だに「正解主義」の教育を続けてよいのか

石黒 私は経済産業省で審議会の委員をさせていただいているのですが、経済成長の話をしていても、結局いつも教育が変わらないと何も始まらないという議論になるんです。それで日本の教育を変えるにはどうすればいいか、これまでこの連載で考えてきましたが、藤原先生はそもそも日本の教育の何が問題だと思われますか。

ふじわら・かずひろ
大阪府教育委員会特別顧問、東京学芸大学客員教授 1955年東京生まれ。1978年東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。1996年同社フェローとなる。2003年より5年間、都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校校長を務める。2008年、当時の橋下大阪府知事の特別顧問に。著書は『人生の教科書[よのなかのルール]』(ちくま文庫)、『35歳の教科書』(幻冬舎)、『父親になるということ』(日経ビジネス人文庫)、『坂の上の坂』(ポプラ社)など多数
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藤原 2つ問題があると思うんです。1つは、まだ多くの人が“平均的な日本人”がいると思っていることです。いま政府が“分厚い中間層の復活”を叫んでいますけど、そんな日本人はもういません。「みんな一緒の時代」から「それぞれ一人ひとりの時代」になり、上下の格差もできて人々がとても多様化している。それにもかかわらず、教育や雇用の問題において、まだみんなが「一億総中流」の意識で議論をするからおかしくなるんです。

 もう1つは、エリート人材が必要にもかかわらず、輩出する仕組みが整っていないこと。エリートとは、グローバルでの競争に貼り合えるような突出した人材で、中曽根政権時代にエリート教育推進が議論されましたが、結局、日本の悪平等主義に押されてうやむやになってしまった。最近、経済的に余裕のある家では子どもを中学から海外留学させる親も現れていますが、やはり国の力によって国際的に張り合えるエリートを育てるべきです。

 そして、根本として一番おかしいのは、日本を覆う「正解主義」という宗教みたいなもの。今の日本には、「正解主義、前例主義、事なかれ主義」が三位一体になった典型的な学校文化があり、それが学校から滲み出して、社会を覆っていることが最も大きな問題ではないでしょうか。