ブス役に徹することに疲れた
徐々に、私は自分の役割を理解しつつあった。ガールズバーというのは、バランスが肝心なのだ。超絶美人がいれば、ブスもいなければならないのだ。
よくよく考えると、お店のキャストは「美人」枠と「ブス」枠で役割分担がされていた。「美人」枠の筆頭はあおいちゃんだったが、「ブス」枠の筆頭も存在した。
モデルをやっていてスタイルが良く、田中みな実風のタレ目が特徴的で、一般的に見れば確実に「美人」に分類されるのだが、みな実ちゃんの顔面偏差値は58くらいだったから、あおいちゃんと比べてしまうとたしかに劣る。絶対的なブスではないけれど、相対的に、ブスなのだ。この店の中では。けれどもみな実ちゃんは卑下するどころかむしろ、自分の偏差値が58であるという事実を武器にしていた。とにかく「ひど~い」というキャラに徹してファンを獲得していたのである。
みな実ちゃんは「かわいい」枠の女の子と一緒に入ると完璧な引き立て役を演じた。「比べるとひどいな~」とおじさんたちに言われても「もう~またそんなこと言ってる~」とか、「そうやっていじわる言ってるけど、本当はみな実のこと好きなんでしょ~」とか、うまく返して場を盛り上げていた。そうして徐々にファンを獲得していたので、ナンバーワンではなかったけれど、彼女を指名する人は一定数いた。ガールズバーにはそういう勝ち方もあるのだ。
だから私もそんな風に盛り上げ役に徹せられればよかったのだろうけど、あいにく、みな実ちゃんのような器用さとメンタルの強さは持ち合わせていなかった。「ブス」と言われれば純粋に傷ついたし、比べられてひどいことを言われたら、その日一日立ち直れないくらい落ち込んだ。私はブスなのかと本気で悩んだ。
どうしてそんな風に言われなくちゃいけないんだろう、と悶々とした。これが仕事なのか、と。不思議だった。なぜなら、お店に来るおじさんたちはほぼ例外なく、女の子たちを見比べ、品定めしていたからだ。
もちろん、どの女の子も平等に扱ってくれるいいお客さんもいたけれど、ほとんどの人はそうではなかった。お酒を飲み、女の子を「かわいい」とか「ブス」とか「胸がない」とか「面白い」とか「おとなしそう」とか「若いね」とか「セックス好きそう」とか勝手にあれこれ推測し、品定めをし、点数をつけた。