1年半でガールズバーを辞めた理由

思いの外、それは続いた。自分でも驚いた。はっきり言って水商売にしては時給はそこまでよくなかったし、コールセンターや塾講師などのアルバイトと同じ程度だったからだ。

それでも1年半くらい続いたのは、続けたいと思ったのは、単純に面白かったからだった。

店は女の子たちを大切に扱ってくれたし、お触りなどもなかった。また、夜の世界によくある(と思われる)ギスギスした空気も私が知る限りなかった。かわいくて性格の良い子が多く、目の保養にもなった。

店には、だいたい口コミで知ったお客さんしか来ない。わりとお金持ちの多いエリアだったので、傾向としては、高給取りのサラリーマンがメインの客層だったように記憶している。

人間観察としても面白い場だったし、何より、人とコミュニケーションをとるのが苦手だったので、そこでのアルバイトはいい訓練になった。知らないお客さんとただひたすら話し続ける。場を盛り上げる。タイミングを見計らい、気を利かせてお酒をおすすめする。

行く頻度は少なかったけれど、それでも社会人になる前にあのアルバイトをやってみてよかったな、と思っていた。

親にはちょっと言いづらいけど(当時は現在よりも水商売に偏見を持つ親世代が多かった)、いいことばっかりじゃん。

ある一点を除けば。

周りの大学生たちと違う、華やかな世界でアルバイトをしているという妙な優越感もあったし、できれば卒業まで続けたいと思っていたけれど、私はだいたい1年半くらいでそのバイトを辞めてしまった。

理由は単純だ。

おじさんたちに見下されることに耐えられなくなったからだ。

そのガールズバーはとにかくかわいい子が多く、女優の卵や売れないグラビアアイドル、一般人だけれども信じられないくらい顔が整っている子もいた。ナンバーワンだった女の子はベトナム人風の超絶美人で、どことなく宮崎あおいにも似ていた。どのお客さんが来ても「なんだこの子! めっちゃかわいい!」「え!? こんなかわいい子いるの?」と言いださずにはいられないくらいだった。

あおいちゃんは私が人生で出会った中でも1位、2位を争うほどの美人で、もう目を合わせると息が止まってしまいそうなほどだった。明るくて、かわいくて、話も面白い。お客さんの話を盛り上げるのもうまい。誰もがあおいちゃんを好きになった。私にもとても優しくしてくれた。彼女を好きにならない人がいるのだろうか、と思うほどだった。本気で惚れ込んで毎週通っているガチ恋勢のお客さんも多かった。

そんな顔面偏差値が68くらいの店の中で私の顔面レベルは底辺だったから、せいぜいあおいちゃんの「ヘルプ」としてつくことしかできなかった。あおいちゃんが真ん中にいて、その周りにいる人たち。いわゆる引き立て役というやつだ。

でも、私は別にヘルプでいいと思っていた。そのときは。

あくまでも本業は学生だし、他のアルバイトもしているし、そこまで深入りする必要はない。ナンバーワンになりたいわけでもないし、お小遣い稼ぎ程度の気持ちだから、ヘルプの立場で人間観察できていればいいや、と。

けれども次第に、カウンターの中に入るのが恐ろしくなっていった。カウンターの中が、試合のリングであるかのように思えてきたのだ。

それは、単純なことだった。来ているお客さんたちから、おじさんたちから比べられてしまうのだ。あおいちゃんと。

「いやー、見てこれ、ほら! ちょっと二人並んでみてよ。目の大きさ全然違うもんね!」

「あおいちゃん本当かわいすぎない? 乃木坂入れるんじゃない? あー、君は無理だなぁ。あれ、名前なんだっけ? ごめん」

「さきちゃんはまあ、あれだよね。面白い顔してるよね。別にかわいくはないよね」

自分で言うのもなんだが、私は自分のことを特別美人とは思っていなかったけれど、とくにブスだとも思っていなかった。

けれども、そのお店では、私は「ブス」役に徹しなければならなかった。