『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』では、組織文化の変革方法についてまとめました。本連載では組織文化に造詣の深いキーパーソンと中竹竜二さんが対談。ともに学び合うオンライングループ「ウィニングカルチャーラボ」で実施したイベントの内容をまとめました。今回のゲストは、レオス・キャピタルワークスの創業者の藤野英人さん。日本のアクティブ投資信託として最大級のファンド「ひふみ投信シリーズ」を手掛けています。投資の世界と組織文化。そこには意外な共通点がありました。(聞き手/中竹竜二、構成/添田愛沙)

■藤野さんとの対談を受けたVoicy配信>「ヒトを成長させる「ゆかし」とは?」「根拠のない自信、ありますか?」
■藤野さんとの対談を受けたnote記事>「人を成長させる「ゆかし」とは?」「根拠のない自信、ありますか?」

「好きな仲間と楽しく働く」を実現するために必要な、たった一つのこと『ウィニングカルチャー』著者の中竹竜二さん(左)とレオス・キャピタルワークス社長の藤野英人さん(右)

中竹竜二さん(以下、中竹) 今回のゲストはレオス・キャピタルワークス社長の藤野英人さんです。藤野さん、大変恐れ入りますが、簡単に自己紹介をしていただけますか?

藤野英人さん(以下、藤野) レオス・キャピタルワークスの創業者で、会長兼社長の藤野です。「ひふみ投信シリーズ」のファンドマネージャーとして有名かも知れません。「ひふみ投信シリーズ」というのは、日本のアクティブ投資信託として最大級のファンドです。お客さまからお預かりしたお金を適切な会社に投資をする。会社の業績や価値が上がって、株価も上がって、お客さんも喜ぶ。そういう良い循環を社会につくろうとしています。

中竹 藤野さんはファンドマネージャーであり、組織を経営するリーダーでもある。2つの顔をお持ちということですが、ご自身では、どちらのイメージが強いですか。

藤野 僕は投資家や会社経営者、大学の先生、物書きなど、いろいろとやっていますが、メインの関心事は「育てる」ことです。

中竹 今回私の書いた『ウィニングカルチャー』のテーマは、まさにその「育てる」の前提にある組織風土やカルチャーについて取り上げています。藤野さんは、組織のカルチャーをどのように捉えていらっしゃいますか。

藤野 私は会社経営に対する考え方は、リーマンショック前後で、まったく変わりました。

 リーマンショックで自分の会社の株が一株1円になって、会社の株3240株を売却したら3240円だけが手元に戻ってきました。当時、2000万円くらい借金があったんですけど、ほとんど一文なしになってしまって……「どうしてこうなったんだろう」と考えたんです。

 それで、会社のカルチャーのつくり方を失敗したことに気がつきました。ビジョンや性格、会社に対する親和性よりも、それまでにその人が出してきた成果を重視して採用していたことが大きな問題だったんだ、と。カルチャーを無視してしまっていたんですね。

 けれど、人生は好きな仲間と楽しく働くことが一番大事です。それに尽きます。今は、企業文化やカルチャーをつくっていくことに、自分の思考と意識を傾けるようになりました。

中竹 「好きな仲間と楽しく働く」って一見、安易でゆるく聞こえてしまうので、口に出すにはとても勇気がいると思うんです。それでも藤野さんはこうして堂々とおっしゃっている。やはり、どん底を経験したからこそたどり着いた答えなのでしょうか。

藤野 「好き」にはディシプリン(規律)があります。僕は仲間として、お客さまのために忠実でなく、自己利益だけを追求する人は好きではないし、楽しいことが一致してないと、楽しくありません。

 僕らのライバルは超巨大企業なので、大きな目標を掲げて、それに戦い抜いて勝つのが楽しいと思えるか、ということがすごく大事です。勝ち方も大事ですよね。卑怯なことはしないとか、コンプライアンスをきちんと守るとか、自己利益だけを追求しないとか。

中竹 「ディシプリン(規律)」は私も大事な言葉だと思います。「好きな仲間と楽しく働く」ということは、藤野さんにとってディシプリンが一致する仲間とハードワークの伴う楽しさを共有する、という意味なんですね。

藤野 僕らの仕事って、数字で明確に評価されるので、数字からは逃げようがないんです。1年間で何%上がったか、何%下がったかというのは明らかな事実で、しかもライバルがどうだったかも一目瞭然で分かる厳しさがある。その中でしっかりと戦って、勝ち抜いて、お客さまを喜ばせなければならない。だからこそ、厳しい戦いに勝つことと楽しさは、切り離せないんです。

中竹 それはスポーツのチームにも通じますね。実は「ディシプリン」という言葉は、日本ラグビー界にとってもすごく重要な言葉だったんです。

 エディ・ジョーンズ(ラグビー・イングランド代表ヘッドコーチ、前ラグビー日本代表ヘッドコーチ)も、とにかく徹底的にディシプリンを守り、ハードワークを重ね、「その中でどう勝つのかを俺はみんなに伝えていくんだ」と言っていました。「我々は今は弱いけれど、必ず南アフリカに勝つ。そのためにはディシプリンを大事にしながら死ぬほど練習する。それが楽しいことなんだ」と。

藤野 実は中竹さんの会社に、当社の社員をコーチングをしていただいて、日本のラグビーと僕らの資産運用の考え方が似ていると感じていたんです。

 僕らの会社は、それぞれのプレイヤーが集まった専門家集団です。プレイヤーとしてやるべきことを繰り返して勝ち上がっていったら、プレイヤーの下には部下ができるし、会社は大きくなればなるほど、チームでやらなくちゃいけないことも増えてきます。

 それなのに、みんな一人ひとりのプレイヤーイズムが強すぎて、マネジメントは好きじゃないし、関心もない、という状態が続いていました。会社が大きくなっていく過程で、プレイヤーがプレイヤーのままで、誰もリーダーにならなかったら会社が成り立たないという問題意識があったんです。(2022年2月18日公開記事に続く)