『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』で取り上げたテーマは「組織文化」。2019年に開催されたラグビーワールドカップで、日本代表は初めてベスト8に入りした要因の一つを、“負け犬根性”からの脱却にあると説明しました。一体、舞台裏では何が起きていたのか。実際に起こった話を紹介しましょう。

主将の照れ笑いにブチ切れて日本ラグビー界を変えたエディ・ジョーンズ監督<br />Photo: Adobe Stock

 前回の記事では、ラグビー日本代表が2019年のW杯でベスト8に入った背景には、“負け犬根性”からの脱却があるとお伝えしました(詳細は「ラグビー日本代表初のベスト8入りを裏側で支えた「組織文化」の変革」)。今回は、具体的に裏側で何が起こったのかをお伝えします。

 W杯開幕戦のことです。

 日本代表の最初の対戦相手は格下のロシアでした。落ち着いて試合を運べば大差で勝利できる相手です。

 ところがこの試合で、日本代表は普段はしないような簡単なミスを連発しました。致命傷には至らなかったものの、ミスが原因となって最終的なスコアは30対10。かろうじて勝利を収めましたが、本来の実力差にはほど遠い結果でした。

 試合後、選手たちは記者会見でこう語っていました。

「マジで緊張して死ぬかと思いました」

「今日は、ゲームの最初から本当に何をやっていいかわからなかったです」

 初めて日本で開催されるW杯。それも勝って当たり前の格下チームを相手にした開幕戦。重いプレッシャーに緊張した選手たちは、自分をコントロールできずにいました。

 私が注目したのは、緊張してミスを連発した事実を、選手たちが率直に明かしたことでした。彼らの態度と言葉にこそ、日本代表が構築してきた「ウィニングカルチャー」が象徴されていたのです。

 スポーツ界ではこれまで、国代表の選手は堂々と振る舞うべしとされてきました。どんなに緊張してもそれを明かさずにいること。当然ながら弱音は許されません。

 しかし、このチームは違いました。選手たちにムダな気負いが一切ありませんでした。

 ジェイミー・ジョセフ監督の方針によって、日本代表チームでは、選手たちが普段から互いに弱さを含めた多様な感情をさらけ出し、失敗を認めることで学び合い、貪欲に強くなろうとしていました。

 選手たちが伸び伸びとプレーし、ミスや弱さも認め合いながら、ともに成長して勝利を求めていくようなチームになっていたのです。

 報道陣の前で率直に語った彼らの姿から、私は日本代表がこれまで構築してきた組織文化の一端を感じました。だから、日本代表は初のベスト8入りという成果を残すことができたのでしょう。

 日本のラグビー界の歴史を振り返ると、当初から強いチームだったわけではありません。

 むしろ長い間、“負け犬根性”から脱却できずにいました。それを厳しく指摘したのは、ジェイミー監督の前任のエディ・ジョーンズ監督でした。