林修さんと奥田民生さんが賛辞を贈ったあたらしい会話の本『会って、話すこと。』。著者でコピーライターの田中泰延さんは、この本を書くにあたって40冊ほど「会話術」や「話し方」の本を買って読んだそうです。本記事では、そこで得た「気づき」と「学び」をシェアします。(構成:編集部/今野良介)
『30秒で人を操り1億円稼ぐ超一流の雑談術が10割』
『会って、話すこと。』を制作するにあたって、ダイヤモンド社の編集者で、あまりよく知らない人なのだが今野? とかいう人が、「会話術とか話し方の本は市場が大きいんです!」といかにも金欲しそうな勢いで言ってきた。
それならその市場に参入しよう! と、わたしは金欲しさにほんの40冊ほどそのジャンルのハウツー本を買ってみたのだが、なるほど10冊ぐらいは数十万部、100万部突破というような大ベストセラーである。
さぞ素晴らしいことが書いてあるのだろうとタイトルを見てみると、『得する』『超一流』『9割』『稼ぐ』『1分』『雑談』『人を操る』などの言葉が並ぶ。
わたしの本のタイトルも今から『30秒で人を操り1億円稼ぐ超一流の雑談術が10割』にすれば500万部売れる。1分でどうにかする本の倍の速度だし、9割の本から1割増量している。売れないわけがない。もしわたしの本をお持ちで、表紙にそれと違う題名がついていたらそれはミスプリントの可能性がある。急いでもう1冊買って確かめてほしい。
そうそうたる会話術・話し方のベストセラーの中身は、
「相手に関心があると思わせる質問の仕方」
「相手に絶対に伝える」
「あいづちの打ち方」
……どの本もそっくりなのだ。とにかくテクニック論である。1冊づつ紹介しようと思ったが、やめた。その代わり『会って、話すこと。』に全部逆のことを書いた。
『人を操る〇〇』などという題名の本を買う人、どう考えても操られて本を買わされているのはその人自身だろう。ハウツー本を買ってしまう人の心理には「トクをしたい」だけではなく、ひいては「人間およびこの世界への不信感」がある、と思う。
会話はテクニックではない。
話し下手だけど信頼できる人、ぶっきらぼうだけど愛せる人、なにを言ってもすべるけど可愛く思える人、きっとあなたのそばにもいるだろう。
本書にもテクニック論は何も載っていない。しかし、信頼され愛され可愛がられる本でありたいと願う。
自分のことは話さなくていい。相手のことも聞き出さなくていい。
『会って、話すこと。』は、毎日の会話の中で、こんなことに苦しんでいる人に読んでもらいたい。
・ 自分のことをわかってもらおうとして苦しんでいる人
・ 他人のことをわかろうとして苦しんでいる人
・ 他人を説得したいと思って苦しんでいる人
・ 他人を思い通りに動かしたいと思って苦しんでいる人
・ 他人にもっと好かれたいと思って苦しんでいる人
・ 会話でもっと学びを得たいと思って苦しんでいる人
・ 会話でもっと笑いたいと思って苦しんでいる人
興味もないのに相手の話を聞くふりをしたり、
聞いてもいないのに相槌を打ったり、
理解してもいないのに相手の言葉を反復したり、
そんな会話術が人間同士が正直に向かい合う態度といえるだろうか。
あるいは、興味本位に相手に根掘り葉掘り質問を浴びせたり、
自分を理解させたくて心の内面を相手にぶちまける、
そんな姿勢が向かい合う二人を幸せにするだろうか。
また、上手な世渡りのために相手を持ち上げたり、
自分の利益のために相手に「イエス」と言わせる、
そんなテクニックが誠実だと言えるだろうか。
自分のことは話さなくていい。
相手のことも聞き出さなくていい。
ただ、お互いの「外」にあるものに目線を合わせ、
同じ方を向くことができれば、
誰とだって会話は続くし、楽しくなる。
2020年から非日常になってしまった「会って、話す」を問い直し、
幸せな人間関係を築く技術と考え方を伝えます。
【目次】
はじめに 大阪人の会話に「オチ」と「ツッコミ」はない 《田中泰延》
序章 なぜ「書く本」の次に「話す本」をつくったのか?
・この本は、前の本と密接に関連している 《田中泰延》
・おじさん同士の会話に、だれが興味あるのか 《今野良介》
第1章 なにを話すか
ダイアローグ1 「わたしの話、聞いてます?」 《田中泰延 × 今野良介》
その1 相手はあなたに興味がない
その2 あなたも相手に興味はない
その3 わたしのことではなく、あなたのことでもなく、「外部のこと」を話そう
その4 「おもしろい会話」のベースは「知識」にある
会話術コラム① とにかく話が飛ぶ浅生鴨さん
第2章 どう話すか(とっかかり編)
ダイアローグ2 「ちがうやろ!」 《田中泰延 × 今野良介》
その1 「関係ありそうな、なさそうなこと」を話そう
その2 「ボケ」は現実世界への「仮説」の提示
その3 「ツッコミ」は「マウンティング」である
その4 審査員になるな
その5 会話に「結論」はいらない
その6 「知らんけど」の効用
会話術コラム② 困った時はこけてみろ ~ 岸本くんの教え ~
第3章 どう話すか(めくるめく編)
ダイアローグ3 「ビジネス書なんですけど」 《田中泰延 × 今野良介》
その1 「他人の発言にどう返したか」が、今のあなた
その2 言葉は「細部」が大事
その3 人間は会話すると、必ず傷つく
その4 行為より、言葉のほうが重い
その5 エトスなき会話は虚しい
会話術コラム③ 会話術の本、その素晴らしきデタラメ世界
第4章 だれと話すか
ダイアローグ4 「わたしのこと、好きですか?」 《田中泰延 × 今野良介》
その1 「機嫌よく生きる」大切さ
その2 会話の始め方、終わらせ方
その3 おかしい人のおかしさは「距離の取り方」のおかしさ
その4 悩み相談には種類がある
その5 自分が楽しくなるリアクションをしよう
会話術コラム④ 好きという言葉は、最悪です
第5章 なぜわたしたちは、会って話をするのか?
ダイアローグ5 「失敗談を聞かせてください」 《田中泰延 × 今野良介》
その1 オンラインはなにがダメなのか
その2 「書く」より先に「話す」があった
その3 「出会い」とは「仕入れ」が他人と響き合った時
その4 吐露ということ
その5 違う人と、同じものを見る
ダイアローグ6 「また会いましょう」 《田中泰延 × 今野良介》
おわりに
・廃れない本 《今野良介》
・「わたし」と「あなた」の間に「風景」がある 《田中泰延》