キリンホールディングスは2月14日、ミャンマー事業から撤退する方針を明らかにした。磯崎功典社長は、「参入当時のデューデリジェンスに問題はなかった」と強調する。しかし、キリンのメインバンクの三菱UFJ銀行が当時、ミャンマーのリスクを警戒し、リスク回避の行動に出ていたことが分かった。キリンはミャンマーのリスクを本当に認識できなかったのか。(ダイヤモンド編集部 山本興陽)
キリンHDがミャンマー事業から撤退
22年6月までの決着を目指す
「十分なデューデリジェンス(投資先の調査)をして、平和な国になるだろうと期待して参入した。自分に瑕疵があるかとか、問題があるとは感じていない」
2月14日、キリンホールディングス(HD)はミャンマー事業からの撤退を表明した。キリンHDの磯崎功典社長は記者会見の席上で、ミャンマーに参入した経営判断に問題はなかったという姿勢を強調した。
キリンHDが同日発表した2021年12月期決算の売上高は前年同期比1.5%減の1兆8216億円、最終利益は同16.9%減の598億円だった。
主な減益要因は、ミャンマーでのビール事業の減損だ。既に中間決算の段階で214億円の減損を発表していたが、損失はさらに202億円増え、通期では416億円の減損計上となった。
さらに、為替換算差額で約190億円、現地合弁企業の残存資産回収不能リスクで約120億円、それぞれ損失が膨らむ可能性があるという。
巨額損失を招いたミャンマーにキリンHDが進出したのは15年。約700億円を出資し、ミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)と合弁で事業を進めてきた。当時のミャンマーは11年に民政移管したこともあり、「アジア最後のフロンティア」ともてはやされていた時期だった。
キリンHDにとってミャンマー事業はうまみがあった。事業利益率は約40%と高収益で、20年12月期の事業利益は138億円と、連結事業利益に占める割合も1割程度に達していた。
しかし、21年2月に発生した国軍によるクーデターで様相が一変した。合弁先のMEHLが国軍系企業だったことから国際社会からの批判が強まったのだ。
キリンHDは事業継続を優先してMEHLとの合弁解消を模索していたものの、交渉は難航。結局、キリンHDが51%ずつ出資するMEHLとの合弁会社2社の株式を、22年6月末までに手放す方針となった。
日本のビール類市場は17年間連続で縮小を続けており、海外に活路を見いだそうとすることは自然な経営判断だ。
そこで焦点となるのは、ミャンマー参入の妥当性だ。磯崎社長は冒頭のように、十分調査した上で参入した当時の経営判断に問題はないという姿勢を強調する。
ところが、キリンHDのメインバンクで、同じ三菱グループの三菱UFJ銀行はミャンマーのリスクを指摘し、リスク回避のために“ある行動”に出ていたことがダイヤモンド編集部の取材で分かった。
つまり、キリンHDはメインバンクが警戒していたミャンマーのリスクを認識できていたはずなのに、投資を強行していたのだ。
次ページ以降では、キリンHDのミャンマー参入時に三菱UFJが取った行動と、今後のシナリオをひもとく。