国内市場がジリ貧に陥る中、ビールメーカーは海外に活路を見いだそうとしている。アサヒグループホールディングスは2兆円超を投じ、「脱・日本」を模索する。一方、誤算が続くのがキリンホールディングス。海外の稼ぎ頭は消滅寸前の危機だ。特集『ビール蒸発』(全8回)の#6では、ビール2強の海外戦略に迫った。(ダイヤモンド編集部 山本興陽)
ミャンマー市場の「崩壊」
200億円超の減損が財務を直撃
9月16日、ミャンマー北西部の地方都市モンユワ。ミャンマービールの倉庫が突然、激しい炎を上げ爆発し、轟音とともに崩れ落ちた。キリンホールディングス(HD)にとっては、海外戦略の最後の“頼みの綱”が崩れ去った象徴的なシーンだったのかもしれない――。
キリンは、2015年に約700億円を投じてミャンマー市場に参入した。現地の大手複合企業、ミャンマーエコノミックホールディングス(MEHPCL)と合弁を組み、同国でシェアトップのミャンマービールを販売する。
現地シェアの約9割を握るミャンマー事業はまさに「金の卵」を生み出す鶏だった。ミャンマー事業の事業利益率は約43%(20年12月期)。国内酒類事業の利益率約12%をはるかに上回る。
しかし、順風満帆に見えたミャンマー事業に落とし穴が待っていた。21年2月に国軍によるクーデターが発生したのだ。MEHPCLは国軍系で、市民からキリンに対して反発が強まった。
現地報道によれば、9月にミャンマービールの倉庫を爆破したのは軍に抵抗する勢力とされる。不買運動も現地では続く。現地関係者は、「ミャンマービールが棚から減っている。タイや欧州系のビールが店頭で目立つ」と話す。シェアも急速に低下しているもようだ。
この誤算はキリンの決算も直撃した。キリンは21年4〜6月期に214億円の減損損失を計上し、21年通期の純利益の見通しを従来予想の1030億円から865億円に下方修正した。磯崎功典社長は「減損は非常に残念であり、重く受け止めたい」と述べた。
もともと国内ビール大手の中でも、キリンは海外進出をいち早く本格化していた。キリンを突き動かしたのは国内ビール市場が頭打ちになるとの危機感だ。
しかし、キリンにとって海外戦略は「鬼門」といわれてきた。キリンの海外事業の苦闘の裏側を探ると、その“元凶”が浮かび上がってきた――。