庶民は上級国民と反比例して貧しくなるのみ

 まず、政治家にとってバラマキほどありがたいものはない、というのは先の衆院選を見れば明らかだろう。全国民への現金給付を公約に掲げた政党が多くあったように、バラマキは最強の選挙対策だ。また、バラマキは自治体や企業の間で熾烈な争奪戦になるので、「口利き」が本業である政治家は引く手あまたで、食いっぱぐれがない。

 官僚や公務員にとってもバラマキは悪くない。公共事業や助成事業が増えれば、民間からの接待も増えるし天下りが拡大するからだ。会社経営者やコンサルタントもうれしい悲鳴が止まらない。国が中小企業への事業承継関連の補助金を増額したところ、中小企業経営者とこの分野のコンサルに“事業承継バブル”が起きたことからも分かるように、この手の人たちにとって、バラマキとは現金つかみ取りのボーナスタイムなのだ。

 では、額に汗水垂らして働くわれら一般庶民もそんな恩恵を授かることができるのかというと、残念ながらほとんどの人は関係ない。

 むしろバラマキによって、先進国最低レベルで韓国にまで抜かれてしまった低賃金が、これまで以上にビタッと「固定化」される恐れがある。「天からカネが降ってきた」とこの世の春を謳歌する「上級国民」の皆さんと対照的に、庶民はこれまで以上に、激安スーパーや激安グルメへ依存を強めて「安いニッポン」の深みへさらにハマってしまうのである。

 なぜそんなことが断言できるのかというと、答えはシンプルだ。「バラマキによるバブルは末端の労働者の賃金にまで波及しない」というのは、さまざまなデータを見れば一目瞭然だからだ。

 直近でわかりやすいのが、「協力金バブル」だろう。コロナ禍によって時短や休業を余儀なくされた飲食店を救済するという名目のバラマキで、このおかげで倒産を免れた事業者も多くいた。一方で平時の売り上げを軽く上回るほどの臨時収入となって、旅行や高級外車へ消えてしまったという話もあった。

 では、そんな「協力金バブル」の恩恵は、飲食店で働く従業員まで届いたのかというと、賃金が上がったというデータもないように影響はほぼゼロだ。なぜかというと、従業員の生活のためにとバラまかれたはずのカネが、経営者のところでストップしてしまうからだ。