日本のメディアでは詳細に報道されなかったが、演説中のプーチンは鬼気迫るものがあった。

「(米国は)我々を敵にする必要はなかった」と米欧の対決姿勢を厳しく批判するとともに、「歴史、文化、そして精神的空間(宗教)からもロシアの不可分な一部」であるウクライナを手放してしまったとして過去のソ連の指導者たちまでも糾弾した。彼自身が信じる国家観と歴史観で過去を操作するのもプーチンの得意技だ。

 ウクライナ人に対する恫喝(どうかつ)もすごかった。

「お前たちは非共産化を求めているのか? いいだろう。ではなぜ、中途半端でやめているのだ? ウクライナの非共産化が本当はどういうものか、我々が見せてやる用意はできている」

 隠蔽(いんぺい)と情報操作の天才というこれまでのクールなペルソナをかなぐり捨て、不敵な本性をうかがわせた瞬間だった。

 冷徹な戦略家で99%のロシア人より理性的といわれるプーチンも「偉大なるロシア復活」という幻想の中で冷静さを失ったのか。それとも計算し尽くされた瀬戸際戦術で西側を手玉に取って、最後は勝利を収めようとしているのか。

ウクライナと
バルト三国の明暗

 それに対して、バイデン米大統領はロシア大統領の取った行動は「侵攻のはじまりだ」として、同盟・友好国と準備している厳しい経済措置に加えて、金融制裁を科すことを表明。欧州連合(EU)も「国際法と(ウクライナ東部の紛争解決を目指す)ミンスク合意へのあからさまな違反だ」とプーチンを非難した。

 天然ガスの6割近くをロシアに依存するドイツは厳しい制裁には慎重だったが、ついに独ロ間の新しい天然ガスパイプライン(ノルドストリーム2)の認可手続きを停止する意向を明らかにした。

 だが、プーチンはそんな米欧の反発を当然予想しているはずだ。彼の狙いはどこにあるのか。