昨年7月にロシア大統領府の公式ウェブサイトに掲載された論文で彼は、ロシア、ウクライナ、ベラルーシは歴史的に共通の文化や言語、宗教をもつ「大ロシア、小ロシア、白ロシア」という不可分の兄弟国だと明言している。

 しかし現実には、2014年のロシア軍によるクリミア半島併合を目の当たりにした大半のウクライナの人々は、使用言語に関係なくプーチン大統領を嫌っている。

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 1991年のソ連邦崩壊後、ウクライナ、ベラルーシをはじめ14カ国が独立し、2000年代にはかつてロシアの一部だったバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)などが次々とEU(欧州連合)に加盟したのも、東欧諸国がそう望んだからだ。弱体化したロシアにはそれを食い止めることができなかった。

 カエサルはルビコン川を渡ってイタリア本土に侵攻し、紀元前44年の初頭に首都ローマと帝国全土を支配する事実上の王となった。

 しかし、いまや韓国程度の経済規模しかないロシアにはウクライナ全土を支配して面倒を見る経済的な余力はない。結局、欧米と落としどころの探り合いになるだろう。

 ちなみに、KGBで訓練中のプーチンは、ロシア語訳された米ピッツバーグ大学教授ウィリアム・キングのテキストから学んだことがあるという。それは「不確実性に備えることは戦略の最も重要な要素」だということだ。

(国際ジャーナリスト・外交政策センター理事 蟹瀬誠一)

【訂正】記事初出時より以下のように訂正します。
20段落目:「2019年の大統領選で親ロシアの現職ポロシェンコを退陣させ」→「2019年の大統領選で現職ポロシェンコを退陣させ」
(2022年3月1日17:21 ダイヤモンド編集部)