対外的な膨張主義を強める中国。習近平国家出席は台湾統一を「歴史的任務」と明言し、米国は6年後には人民解放軍がその能力を有すると警戒する。実際に台湾有事となれば、南西諸島のインフラや米軍・自衛隊基地も中国の攻撃対象となる。その時、一体何が起きるのか?サイバー攻撃や経済封鎖を組み合わせた「ハイブリッド戦」を含め、元陸上自衛隊トップとして想定される事態をシミュレーションした。(元陸上幕僚長 岩田清文)
中国「台湾統一は6年後」の米軍の予測
「意図」ではなく「能力」だが、双方に警戒を
中国が世界に覇権を拡大し、各所において摩擦を起こしている中、今最も危険性が叫ばれているのが台湾有事である。安全保障上、今世紀最大の課題と言っても過言ではない。
「台湾関係法」に基づき、台湾防衛に関与している米国も、その危機が迫っていることを認識している。去る3月9日、議会上院の軍事委員会公聴会の場で、台湾を責任区域とする米インド太平洋軍のデービッドソン司令官(当時)が「向こう10年、実際には今後6年で(中国の台湾侵攻の脅威が)明らかになる」と発言した。
この認識に関し、米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は6月23日、下院軍事委員会の公聴会で「中国の習近平国家主席は、台湾を占領する能力を発展させるための近代化計画を加速するよう人民解放軍に求め、その時期を2035年から2027年、(今から)6年後に早めた」としながらも「これは能力であり、攻撃や占領の企図ではない」と、デービッドソン司令官発言の「6年後」の意味するところを説明した。
一方で、企図という観点では、ミリー議長は6月17日、上院歳出委員会の公聴会で「(中国が)軍事的に侵攻する企図および動機は少ない。軍事的に侵攻する理由はなく、中国はそのことを理解している。よって喫緊、近い将来(今後1~2年の間)には(軍事侵攻の)可能性はおそらく低い。しかしながら、台湾併合は中国の核心的利益である」と答えている。
さらにオースティン米国防長官も同じ公聴会の場で、「台湾統一が中国の目標であることは疑問の余地がない。その時期や時間的幅については、これから見ていく必要がある」と発言している。
脅威の程度を探るには、相手の「意図」と「能力」の両面を見る必要がある。米軍高官は、「能力」の面において、中国が台湾侵攻の力を保有するかどうかの重要な分岐点が6年目であると見ているようだ。
一方、「意図」の面では、目の前の脅威とまでは言えないものの、台湾統一が中国の核心的に重要な目標であることから、今後は侵攻の時期を焦点として注視していく必要があるとしている。
その中国は7月1日、中国共産党創立100周年を祝う式典において、習主席が台湾統一を「歴史的任務」と位置付けた。
仮に6年後の2027年、中国が軍の近代化に成功し、台湾進攻の能力を保有した場合、習主席の意図が膨らみ、もはや「夢」ではなく「任務」として台湾侵攻に暴走する可能性は高まる。その場合、習近平主席はどのような台湾統一のシナリオを描くのであろうか。具体的にイメージしてみよう。