人類最高の頭脳をもつ天才物理学者たち。彼らは半世紀にわたってヒッグス粒子の発見を競ってきました。その過程で繰り広げられた、あまりにも泥臭い人間ドラマ──。『ヒッグス粒子を追え』ではその赤裸々な姿が詳細に描き出されます。
監訳者である東京工業大学准教授・陣内修氏に、そうした側面から本書の魅力を語っていただきました。
天才たちの前にたちはだかる
難攻不落の壁
『ヒッグス粒子を追え』は、標準模型が確立され、ヒッグス粒子の存在が起案された1960年代、および1970年代を軸に話が展開されます。
それ以前の1930年代に、粒子間の力を説明する理論として「量子電磁力学」というものが生まれました。ところが最初は有望であると思われていたこの理論に、どうやら問題があるらしいことがわかってきたのです。基本となる近似計算を超えて、より正確な高次の計算を実行しようとすると、その答えが「無限大」となってしまうのです。
この問題が残されたため場の量子論は一時歩みを止めてしまうことになります。数多の科学者がこの難問の解決に挑みましたが、答えは見つかりませんでした。この難攻不落の問題を本書では「無限大のパズル」と呼んでいます。
同時に課題になったのが粒子の質量の問題です。当時の標準模型で考えると、粒子は質量を持たないことになるのですが、現実に存在する粒子は質量を持っています。これらの謎に、時代を代表する天才物理学者たちが果敢に挑むことになります。
彼らがいかに理論を体系化し手なずけていったか、本書ではその歴史過程を徹底的にドキュメンタリー化しています。その謎の最後の鍵が「ヒッグス場」であり、物語はヒッグス粒子を探せという方向に展開していきます。