ロシアの最新鋭ミサイル「S400」ロシアの最新鋭ミサイル「S400」。カリーニングラードへの配備も取りざたされるどう喝の手段だ 写真:毎日新聞社/アフロ

プーチン大統領の対EU戦略の大原則は、EUを一枚岩にしないことだ。距離的に近く、旧共産圏ながら反ロのバルト3国やポーランドなどを、核配備発言も含めて政治的にどう喝する。逆に、フランスからは武器を購入しようとしたり、ドイツには天然ガスを直接売ったりして、ロシア寄りにしようとする。それは米国を含むNATOを分断するため。プーチン大統領の「デカップリング」戦略を解説する。

「週刊ダイヤモンド」2017年1月28日号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。

 EU(欧州連合)の崩壊を加速させる第2の危機が、ロシアの“皇帝”プーチン大統領の反撃だ。もし米ロ関係が改善すれば、“暴君”のEU分断工作はさらに激しさを増すだろう。最悪の場合、再び東西に分かれるリスクすらある。

 その真相を読み解くため、まずは時計の針を第2次世界大戦後の時代に巻き戻してみよう。

 第2次大戦後間もなくして、世界は米国を盟主とする自由主義陣営(西側)とソ連を盟主とする社会主義陣営(東側)に二分され、激しく対立する。いわゆる「冷戦」である。

 安全保障・軍事面では、西側が北大西洋条約機構(NATO)を、これに対して東側は、東ヨーロッパ相互援助条約(ワルシャワ条約機構)を発足させ対峙した。

 時は下って1980年代後半に入ると、ソ連の国力が衰え、共産圏の盟主に隷属していた東欧諸国でも、共産党一党独裁が崩れ、民主主義政権が生まれる。90年には東西ドイツが統一され、「大ドイツ」が復活した。翌年には、ついにソ連も崩壊し、ロシアとなった。