米国では当たり前に使われている「見た目の印象操作」とは

印象戦略コンサルタントとして多くの経営者や政治家をクライアントに持つ乳原佳代氏は、初の著書『学校でも会社でも教えてくれない「見た目」の教科書』の中で、「本書で言う『見た目』とは、その人が元来持つ容姿を指すのではなく、相手があなたにそのときどきで抱く『こういう人であってほしい』という印象のこと。信頼できる人、親しみやすい人、知的な人…それぞれのビジネスシーンで相手があなたに求める印象を戦略的に作り上げることは、もはやビジネスの重要なテクニックである」と言います。欧米では「当たり前」に使われてるこの「印象戦略のテクニック」とは果たしてどのようなものなのでしょうか?

印象戦略の幕開け「ケネディ×ニクソンの大統領選」

 イメージコンサルティング。印象戦略の元祖ともいえる、この言葉が最初に生まれたのは、1960年の米国大統領選挙でした。このときの候補者が民主党のジョン・F・ケネディと共和党のリチャード・ニクソンです。

 当時、世論調査では、副大統領経験のある年上のニクソン候補のほうが優勢でした。しかし、ご存じのように史上最年少で大統領に選ばれたのはケネディです。ケネディは今でも理想の大統領像として、米国で強い人気を誇っています。

 では、なぜケネディはニクソンに打ち勝つことができたのでしょうか。その理由は初めて米国で行われた「テレビ討論会」における、ケネディ陣営の印象戦略にあったのです。

 このときのケネディの服装は濃紺のスーツに赤と青のストライプのネクタイ。ポーディアム(演台)に軽く手を置き、背筋を伸ばして画面に映る姿は、若々しさや力強さ、未来へのビジョンを醸し出すものでした。

 一方のニクソンはどうだったのでしょうか。ニクソンが選んだのは、年齢を強調するかのようなグレーのスーツでした。さらに、サイズも大きめで、ポーディアムにもたれる姿勢は弱々しく、年齢よりも老けたイメージだったのです。このとき、ニクソンは怪我と大統領選の疲労で体調がよくなかったことも、マイナスに作用してしまいました。

 服装だけではありません。テレビ用のメイクを施したケネディは顔色も明るくはきはきした印象だったのに比べて、メイクをせず険しい顔つきのニクソンは、病弱で陰気な印象に映りました。

 演説の内容ではニクソンのほうが優れていたという声も少なくない中、圧倒的なケネディ陣営の勝利を導いたのは、まさに「見た目の印象」を戦略的に作り出した結果、といえるでしょう。

 これ以降、米国の大統領選挙ではイメージコンサルタントをつけることが常識となります。