「当時は“忙しいこと”が今よりずっと『いいこと』だったんです。たくさん仕事をかかえて精力的に働くことが美徳のように考えられていました。でも、この10年でそういう考え方が大きく変化しましたよね。自分の時間を管理するというより、自分の時間の意味を考えるようになったように感じます。発売当初から帯に『チマチマした電子アプリではまねできないyPad』なんて強気な言葉を入れて、iPadの向こうを張るような構えでやってきたんですけど、今やiPadがどうこうという話でもありません。yPadの役目もこのあたりで終わりかなと思いました」
日々マルチタスクをこなすビジネスマンをターゲットに、2010年に生まれたyPad。生みの親であるグラフィックデザイナーの寄藤文平さんは当時を冒頭のように振り返る。多忙を極めていたあの頃、夜討ち朝駆けの仕事ぶりは普通の手帳やデジタルデバイスでは管理しきれなかった。予定をカレンダーに落とし込みつつ、別紙に同時進行中のプロジェクトの進捗状況を書き出した。それを見開きに融合させて生まれたのがyPadだった。
しかし、誕生から10年以上が経ち、そろそろ役目も終わったのでは、と発行を終えようとしたところ、根強いファンからの要望にこたえる形で、今年2月、装いも新たに『yPad moss』として復活を遂げた。