後継者である長男の宏之追放というクーデターを仕掛けた日本のロッテホールディングスの社長と専務をクビ宣告で瞬殺した重光武雄。そのクーデター劇の“共謀者”である二男の昭夫が中国事業で巨額の赤字を垂れ流している事実をつかんだ武雄は、それが宏之追放の動機になったと確信する。かたや昭夫はメディアを通じて、自身をロッテの新リーダーとして一方的に世襲完了のアピールを始めた。もはや、武雄と昭夫の衝突は必然のものとなり、そしてついに武雄が昭夫に引導を渡す断罪の日がやってきた。(ライター 船木春仁)
「お前はロッテを潰すつもりか!」
昭夫の巨額赤字垂れ流しを武雄が糾弾
ロッテホールディングス社長の佃孝之と専務CFOの小林正元を“査問会”に呼び出してクビを宣告した5日後の2014年7月8日。ソウル・ロッテホテルの会長執務室に陣取る武雄は怒り心頭で、先の“査問会”に続いて再び昭夫を緊急で呼び出した。
この日は、韓国ロッテグループの子会社社長を集めて開催される「社長団会議」の日で、昭夫は韓国ロッテグループ会長として会議を主導していた。そんな大事な時に小間使いのように呼び出される昭夫の面目は丸潰れだが、武雄はそんなことはお構いなしである。
武雄にすれば、ロッテグループで信じられないような事態が発生しており、その真偽を“首謀者”である昭夫に大至急確認する必要があったのである。実はこの日、ある経営資料が宏之から武雄にもたらされた。そこには、昭夫が中国の流通事業で大赤字を出しており、その赤字額は10~15年度の6年で約1兆ウォン(のちに宏之が対外公表した金額は9643億ウォン)、日本円にして約1000億円にもなる見込みだと記されていた。昭夫が宏之追放に動いたのは、大赤字が明らかになれば自身の立場が危うくなる昭夫が経営の主導権を握るべくクーデターへと動いたのではないかという疑念が、具体的な裏付け資料により確信へと変わった武雄は怒り心頭に発したというわけである。
武雄と昭夫、そして宏之を交えた重光家3人のこの日のやり取りもボイスレコーダーに残っている。録音記録から主要な部分を振り返ってみよう(「( )」で括った解説と文中の太字は筆者によるものである)。
武雄 座れ!(冒頭から武雄の語気は荒く、94歳とは思えぬほどの怒気を感じさせる)
昭夫 はい。
武雄 今日、なんで呼ばれたか、知ってるか。
昭夫 なんの件ですか。
武雄 今までお父さんがやってきたことをお前がみんな潰すつもりか! お前、なにも相談せんで店を作るとはどういう意味だ。
昭夫 どの店ですか。
武雄 中国の全部だ! 中国も全部ひっくるめて去年までに1兆(ウォン)も損してるんだ。どうするつもりなんだ。なぜこんなことしたんだ。
昭夫 はい。中国の件は昨日も報告した通りで、百貨店の平均が今1.5年ですから。去年1店、一昨年2店オープンしていますので、まだ3年になった店舗が一番古い店舗なので……(店舗の説明が続くが後略)。
武雄は赤字の店舗が大量に存在し、巨額の赤字を垂れ流していることに激怒しているのだが、昭夫は新店舗の赤字は当たり前との認識で説明を続け、会話はまったく嚙み合わない。昭夫は録音されていることを意識してなのか、「昨日も報告した通りで」としれっと語っているが、そもそも本当に中国事業の状況を武雄に報告していたのだろうかと疑問が浮かぶようなやり取りが続く。
武雄 お父さんに黙ってなにも言わんで中国に店を作って、そんなことでいいのか。
昭夫 いえ、そんなことはありません。
その後も「俺に黙ってそんなことをやったのか」と武雄が責め、「百貨店の損失は報告した」と言い張る昭夫のやり取りが繰り返される。
武雄 この野郎、本当に。ロッテグループはお父さんが一生かけて作ったものだよ。
昭夫 ええ、わかっています。今、中国の店は、売り上げが30%伸びていますので、必ず黒字にします。
武雄 売り上げが30%増えようが3倍だろうが、これで損をしていたのを知っていたのかお前。
昭夫 はい、知っています。
武雄 君、だいたい、店を出したりする場合には当然社長(武雄)に報告すべきじゃないのか。
昭夫 はい、そうです。5つの中国のお店については、報告していると思いますけれども。
武雄 お前、損しているの知っているか?
昭夫 知っています。昨日、中国について報告したばかりですけれども。
武雄 どんな報告をしたの。
昭夫 去年990億(ウォン)赤字が出ましたけれど、今年は(赤字が)900億(ウォン)ぐらいで、来年は600億か700億(ウォン)ぐらいになるということです。
武雄 毎年1000億(ウォン)ぐらい損しているんじゃないか。
昭夫 ええ、はい。これはでも、毎年といってもまだ出て平均で1年半ですから。一応中国では7年かかります、黒字化するのに。
武雄 1年半だったらそんなに1000億(ウォン)も損をしていいわけ?
昭夫 はい。中国の事業は必ず私が責任を持って片づけます。
武雄 お前が責任持てるか! 馬鹿野郎!