ニュースで見聞きした国、オリンピックやW杯に出場した国、ガイドブックで目にとまった国――名前だけは知っていても「どんな国なのか?」とイメージすることは意外と難しい。大人の教養として世界の国々を知ろうと思った時におすすめ1冊が、新刊『読むだけで世界地図が頭に入る本』(井田仁康・編著)だ。世界地図を約30の地域に分け、地図を眺めながら世界212の国と地域を俯瞰する。各地域の特徴や国どうしの関係をコンパクトに学べて、大人なら知っておきたい世界の重要問題をスッキリ理解することができる画期的な1冊だ。本書から特別に一部を抜粋して紹介する。

Photo: Adobe StockPhoto: Adobe Stock

インドってどんな国?

 インドは南アジアに広大な国土を有し、北は中国に、東はネパール、ブータン、バングラデシュに、西はパキスタンに隣接します。

 北部にはヒマラヤ山脈の山岳地域、中央部にはガンジス川が形成したヒンドスタン平原、南部にはインド半島の大部分を占めるデカン高原が広がっています。

 気候はモンスーンの影響を受け、北東部に位置するアッサム地方の丘陵地帯では、1ヵ月に3000mm以上の雨が降ることもあります。

インドインド

イギリスからの独立後は、社会主義型の国づくりを目指す

 200年近くにわたるイギリスの植民地支配を受けた後、1947年にパキスタンを分離して独立しました。

 独立後は、国内の貧困状態を克服するために社会主義型の国家建設を目指し、計画経済、外資の規制、公営企業による工業化を推進しました。

 その結果、鉄鋼や石油化学などの基幹産業や消費財生産部門の国産化が進み、1977年には食料自給を達成しました。

経済の自由化で外国企業が進出

 しかし、国家主導の保護主義的な経済制度は、生産性の低下や技術革新の停滞をもたらしました。そこで、1980年代になると経済の自由化、規制緩和を進めました。

 1981年に外資と政府との合弁事業として鈴木自動車工業(現スズキ)がインドに進出し、軽乗用車生産で培った技術を提供し、自動車産業の発展に貢献したのもその一例です(現マルチ・スズキ)。

 1990年代になると外資規制はさらに緩和され、自由な経済活動が可能になりました。

ICT産業の急速な発展

 インドのICT産業が発達し始めるのもこの時期で、バンガロールやハイデラバードにはソフトウェア工業団地が建設され、インド工科大学(Indian Institutes of Technology; IIT)は優秀なITエンジニアを輩出していきました。

 当初は、準公用語としての英語を話せることと欧米との時差を利用して、コールセンター事業を担いましたが、徐々にITソリューションやコンサルタントの分野へと産業構造を高度化させていきました。

 現在では、IIT卒のスンダル・ピチャイがグーグルのCEOに就任するなど、インド出身エンジニアが世界的に活躍し、GDPはドイツに次いで世界第5位となるまでに成長しています(2019年)。

「格差の拡大」――人口の約10%が富の約80%を所有

 インド経済のめざましい発展は、中間層と呼ばれる比較的裕福な階層を生んだ一方、1日1.9ドル以下で生活している貧困層が、約10%(1億4000万人)存在すると推計され(2017年)、識字率は74.4%(2018年)と依然として低いままです。

 経済発展により貧困率は低下しているものの、富の約80%を人口の約10%が所有しており、経済格差は以前にも増して拡大しています。

Photo: Adobe StockPhoto: Adobe Stock

カースト制度の影響を受けないICT産業

 経済発展に伴って変化したものにカースト制度があります。

 カースト制度は、職業・結婚・食事などヒンドゥー教徒の生活全体を規制する社会制度であり、人は生まれながらにして職業と結びついた社会集団(ジャーティ)の一員として生きていくことが求められます。

 しかし、ICT産業など従来の職業分類に当てはまらない新たな職業が生まれたことに加え、都市化が進んで人の移動が活発化したことで、自らの所属するカーストの習慣や生活スタイルを守ろうとする人々の意識は都市部を中心に希薄になっています。

 今やカースト制度はインド社会を決定づける中心的な役割を果たしてはいませんが、こうしたカースト制度の変化には、地域差が大きく、多くの農村地域では相変わらずカーストによる規制や風習が残っています。都市部でも、婚姻に関しては依然として重要な意味を持っているといわれています。

 他方、社会的経済的に不利な立場に置かれてきた低カーストに対して、入学や就職、選挙等における一定の優先枠を設ける優遇措置(留保制度)が整備されてきましたが、逆差別であるとして反対する声は根強く、カーストの存在が社会を分断する危険性をはらんでいます。

インド

面積:328.7万㎢ 首都:デリー
人口:13億3933.1万 通貨:ルピー 言語:ヒンディー語(連邦公用語)、英語(準公用語)、多数の州言語
宗教:ヒンドゥー教79.8%、イスラーム14.2%
隣接:パキスタン、中国、ネパール、ブータン、ミャンマー、バングラデシュ

(注)『2022 データブックオブ・ザ・ワールド』(二宮書店)、CIAのThe World Factbook(2022年2月時点)を参照

(本稿は、『読むだけで世界地図が頭に入る本』から抜粋・編集したものです。)