「インドネシア VS アフリカ」これから経済成長するのはどっち?

地理とは「地球上の理(ことわり)」である。この指針で現代世界の疑問を解き明かし、ベストセラーとなった『経済は地理から学べ!』。著者は、代々木ゼミナールで「東大地理」を教える実力派、宮路秀作氏。また、日本地理学会企画専門委員会の委員として、大学教員を中心に創設された「地理学のアウトリーチ研究グループ」に参加し、精力的に活動している。2022年から高等学校教育で「地理総合」が必修科目となることが決定し、地理にスポットライトが当たっている。今、ビジネスパーソンが地理を学ぶべき理由に切り込んだ。(取材・構成/イイダテツヤ、撮影/疋田千里)

インドネシアの強みを
徹底解説!

宮路秀作(以下、宮路):地理的観点から見て、私がいま注目している国はインドネシアです。

 まず人口の点から言うと、現在インドネシアは2億7000万人(世界第4位)。アメリカが3億3000万人(世界第3位)ですから、遠くないうちに逆転してもおかしくない状態です。

 しかも、インドネシアはとにかく年齢構成が若い。今後、国内市場が大きくなっていくことも予想されます。

 さらに、インドネシアは石炭産出国であり、原油や天然ガスも採れます。原油や天然ガスは国内で使うようになって輸出量は減っていますが、多くの資源に恵まれていることは間違いありません。

──石炭、原油、天然ガスがとれるってすごいですね。

宮路:これだけ資源があると、あとは鉄鉱石さえあれば、鉄鋼業が発達する条件はすべて満たしてしまいます。

 そこで地図帳を開いてみて欲しいのですが、インドネシアのすぐ南はオーストラリア。地図で見ると、本当に近いのがわかります。

 オーストラリアの北西部は大鉄山地帯で、鉄鉱石が豊富に採れます。つまり、インドネシアは鉄鉱石も入手しやすい環境にあるわけです。

 これだけの条件が揃っていれば、自前のエネルギーを使って鉄鋼業を起こし、外資を導入して自動車産業を伸ばしていくことも十分に可能です。自国のエネルギーは豊富でガソリン代は安いわけですし、国内市場要が拡大していくことが予想される。

 かつての中国やインドと似た状況にあり、今後の動向が見逃せません。

 インドネシアは脱石炭を掲げていますから、エネルギーとして石炭は使わない方針です。火力発電は国内で豊富に産出する天然ガスを利用できます。余談ですが、この使わなくなった石炭をどこが買っているか、ご存じですか?

──まったく検討がつきません…。

宮路:実は、日本なんですよ。

 こんなふうに地理的視点をもって調べていくだけで、本当に世界のいろんなことが見えてきます。このご時世ですから、当然日本も「二酸化炭素を減らします!」と盛んに言っていますが、石炭を輸入して火力発電をしているうちは……。

 やはり減らすためには原子力発電にしていかなければいけないんですが、それも正直難しい。

 SDGsの観点から言ってもインドネシアのエネルギー政策は耳に心地が良いですよね。ついでに言うと、インドネシアはプレートの狭まる境界に位置して火山が多い。地熱発電も盛んにできるということです。

 さらに言えば、赤道直下で雨が多いので、水力発電もできる。はっきり言って、インドネシアは何でも揃っていますよ。

──聞けば聞くほど、すごいですね。そこまで条件を並べられると「これからインドネシアに注目しなきゃ」と思いますね。

宮路:間違いなくインドネシアは大注目です。ただ、イスラム教を信仰している人が多いので、そういった宗教的な価値観が経済成長にどんな影響を及ぼすか。そしてジャワ島に集中している人口を今後分散できるか、それらが懸念材料ではあります。