ダイエット、禁煙、節約、勉強──。何度も挑戦し、そのたびに挫折し、自分はなんて意志が弱いのだろうと自信をなくした経験はないだろうか? 
目標を達成するには、「良い習慣」が不可欠だ。そして多くの人は、習慣を身につけるのに必要なのは「意志の力」だと勘違いしている。だが、科学で裏付けされた行動をすれば、習慣が最短で手に入り、やめたい悪習も断ち切ることができる。
その方法を説いた、アダム・グラント、ロバート・チャルディーニら一流の研究者が絶賛する1冊『やり抜く自分に変わる超習慣力 悪習を断ち切り、良い習慣を身につける科学的メソッド』(ウェンディ・ウッド著、花塚恵訳)より一部を公開する。

うまくいく夫婦がやっている「習慣の断絶」とは?Photo: Adobe Stock

習慣を断絶するとマンネリから抜け出せる

 慣れは人間関係にも生じる。職場の人に挨拶する、子どもを学校へ迎えに行ってその日あったことを尋ねる、特定の時期に電話やメールで親戚に連絡を取る、といったことを必ず行っているなら、「行動の共依存」が構築されている。

 これは、他者があなたの行動を起こす合図になっていると同時に、あなたも他者の行動を起こす合図になっているという意味だ。「週末はどうだった?」「すごくよかった。君のほうはどうだった?」や、「学校はどうだった?」「楽しかったよ」という具合だ。時間がたつにつれ、そうしたやりとりについて考えることが減っていく。そして、いつもと同じように行動するだけになる。

 結婚生活が長くなると、そうした一定のやりとりがはっきりと見て取れる。それぞれが互いに同じ行動を繰り返しとるうちに、いちいち考えなくなっていく。あまり考えることなく朝一緒に起き、食事をともにし、それぞれが家事をする。相手はこれから何をするのだろうかと考えたりしない。経験からもうわかっている。時間がたつにつれ、ラヴェッソンが提唱する二重の法則が効力を発揮し、喜怒哀楽が薄れていく。

 結婚生活を続けていくと、関係が始まったばかりのときの情熱を感じなくなるという人は多い。とる行動の自動化が進めば、考える必要がなくなり、感情が沈黙していく。新調したことを後悔しながらも使っていたソファーを、結婚相手が受け入れないとどうなるか。単純に、配偶者がいる前でそのソファーに座らなくなる。

 幸せな結婚生活では、断絶が魔法のような効果を生み出すことがある。しばらく忘れられていた情熱的な関係が復活するのだ。短い期間離れ離れになることは、一時的な断絶の一種だ。たとえば、泊まりがけの出張に出かける、両親を訪ねる、といった機会があるだろう。また、突発的な衝突や口論でも、解決するまで断絶が生まれる。

 こうした変化が生じると、相手の気持ちをくもう、これまでとは違う行動をとろうとするようになる。愛する人のことやふたりの関係について、あらためて見つめ直す。それがひいては、この人をパートナーにしようと思った根本的な動機、つまりはそもそも結婚しようと思った動機を思い起こさせる。

 ほとんどの人にとって、それは愛情を意味する。これを体験すると、たいていのカップルは、ケンカをして仲直りをするときにこれまで以上の愛情を相手に示す。その愛情表現はこれまでとは違うものなので、受けた相手は非常に強烈に感じる。パートナーと幸せな関係を築いている人は、この話から得るものがあるはずだ。

 自分が新たな体験(セーリング教室、ブリッジの会、読書会などへの参加)をするという形でパートナーと小さな断絶が生まれる機会をつくれば、パートナーと新しいことを始める、相手の気持ちを思いやる、情熱の高まりを実感する、といったことをしたくなる。口論がきっかけでも同じ結果を得られるかもしれないが、せっかくなら嫌な気持ちになる過程は飛ばしたうえで、料理教室に一緒に行く、といったことをしてみてはどうか? 

 一方、不幸な結婚生活を送っていると、断絶の機会があってもそれほどプラスの効果は生まれない。不満を抱えていると、破壊的なサイクルが習慣になる。本当はそんなことをしたくないと思っていても、自動的にそうし続けてしまうのだ。そういう満たされない関係に陥っているカップルは、関係を傷つけるパターンに気がついていても、どうせ変えられないという心境になっているのではないか。人はそういう結婚生活で抱く感情にも慣れるものだし、心身に有害に思えるやりとりをするからといって、極度の苦痛や心の痛みを覚えるとは限らない。

 相手への軽蔑や怒りを露わにするカップルのやりとりを見ていると、その中身に感情がほとんど伴っていないように感じる。いつの間にかそうすることに慣れてしまったのだ。そういうカップルが、物理的に離れる、突発的に衝突する、新しいことを体験するといった断絶を行ったらどうなるか。関係に問題を生じさせているパターンに向き合うことになるかもしれないし、永遠に別れることになるかもしれない。

 習慣を断絶させると、その行動をとる理由やその方向に向かう理由に潜む現実を目の当たりにするので、マンネリから脱することができる。自動操縦でなくなると、人生で経験することに大きく心が動かされるようになるが、それと同時に予測できることが限定される。主導権が意識的な自己に移れば、自ら考え、選択肢を天秤にかけ、いま現在の目標にとって最良の判断を下す。断絶によって生活のなかから古いパターンを排除し、自ら考えることで、自分の目標や計画に習慣を同期し直すというわけだ。

【本記事は『やり抜く自分に変わる超習慣力 悪習を断ち切り、良い習慣を身につける科学的メソッド』(ウェンディ・ウッド著、花塚恵訳)を抜粋、編集して掲載しています】