「野球型組織」から「サッカー型組織」へ移行するべき理由<br />

3月に『起業家の思考法 「別解力」で圧倒的成果を生む問題発見・解決・実践の技法』を出版した株式会社じげん代表取締役社長の平尾丈氏。25歳で社長、30歳でマザーズ上場、35歳で東証一部へ上場し、創業以来12期連続で増収増益を達成した気鋭の起業家だ。
そんな平尾氏が「スーパーマンの別解力」と驚嘆するのが小泉文明氏だ。大学卒業後の2003年に入社した大和証券SMBC(現大和証券)において、ネット企業のIPOを担当。深く関わったミクシィに2006年に転職。社長室長、経営管理本部長を経て、2008年に27歳で取締役に就任する。2012年にミクシィ退任後、何社かのスタートアップを支援し、2013年12月にメルカリにジョイン。4ヵ月後の2014年3月には取締役、2017年4月に取締役社長兼COOに就任。現在は2019年9月に就任した取締役会長と、同じく2019年に61・6%の株式を取得した鹿島アントラーズ・エフ・シーの代表取締役社長を兼務する。
不確実性が高く、前例や正攻法に頼れない時代。そのなかで圧倒的な成果を出しているおふたりに「起業家の思考法」について語っていただいた。
連載第4回は、「自分らしさ」と組織のあり方に話が及んだ。小泉氏が強調する「個人がエンパワーメントされる」組織とは、いったいどのようなものだろうか。
(写真 株式会社じげん・津田咲 構成 新田匡央)

それぞれ異なる強みを最大化させれば、組織は強くなる

――昨今は多様性の重要性が叫ばれているなかで、個性を生かせる組織づくりが求められています。そこで第4回の対談は、個性を生かせる組織づくりについてお話しいただければと思います。とくに、何度も出てくる「個人がエンパワーメントされる」組織で個性をどのように生かせばいいのか。そこをお聞きしたいですね。

小泉文明(以下、小泉):人間の能力の差はあっても、そこまで大きくはないというのがベースの考え方としてあるかな。だから一人ひとりの強みを最大化させれば、組織はうまくいくと思う。その点では、僕と進太郎さん(メルカリ創業者)、僕と笠原さん(ミクシィ創業者)は、強みも性格も正反対なんだよね。僕はむしろ、正反対の人とやりたいんだよ。

平尾丈(以下、平尾):そうなんですね。

小泉:共通のゴールに、まったく正反対から向かう。絶対的なゴールがあるけれど、性格も強みも真逆。だからやりたくなるんだよ。能力が近い人は、コミュニケーションは楽しいけど、思考が似てしまうから解ける課題が少なくなる。できるだけ高い山に登りたければ、登り方が違う人と登らないと、登れないという考え方なんだよ。

平尾:なるほど。

小泉:そのとき、一人ひとりの弱みを見るのではなく、強みをどう生かしていくかを考える。それが高い山に登るための基本的な考えだと思っているので、一人ひとりの能力を最大化し、個がエンパワーされる環境を整えなければならないよね。メルカリはD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)を意識しているけど、ちょっと難しい言葉だね。平たく言うと、一人ひとりに居場所があって、一人ひとりが自分のやりたいことにコミットできる組織。だとすると、それはフラットな関係、むしろ対等なパートナーシップに近いのかもしれないね。だからこそなおさら、そのパートナーシップの存在意義を裏づける軸が必要で、それによってやり方にも共通認識が持てるという話。

「野球型組織」から「サッカー型組織」へ移行するべき理由<br />小泉文明(こいずみ・ふみあき)
メルカリ取締役President(会長)
鹿島アントラーズ・エフ・シー代表取締役社長
早稲田大学商学部卒業後、大和証券SMBCにてミクシィやDeNAなどのネット企業のIPOを担当。2006年よりミクシィにジョインし、取締役執行役員CFOとしてコーポレート部門全体を統轄する。2012年に退任後はいくつかのスタートアップを支援し、2013年12月株式会社メルカリに参画。2014年3月取締役就任、2017年4月取締役社長兼COO就任、2019年9月取締役President(会長)就任。2019年8月より株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シー代表取締役社長兼任。

平尾:ミッション・ビジョン・バリューですね。

小泉:最近はミッション・ビジョン・バリューを掲げるのは当たり前になったけど、僕らはそれをだいぶ前から言っていた。その軸がないと、フラットな組織はバラバラになりやすいからね。それを説明するとき、僕は扇子を例にしている。扇子は風を送りたいわけじゃない。なるべく早く大きくあおげば、いい風が送れる。そのためには、扇の両サイドの直線は長いほうがいいし、大きく開いたほうがいい。でも、本当に大事なのは扇の要となる留め具だと思うんだよ。留め具が弱いと、扇はバラバラになる。強い風も送れない。この留め具こそが、ミッション・ビジョン・バリューなのね。留め具をいかに強くできるか。そこをしっかりと経営者がやらないといけない。

平尾:わかりやすい。