唾液はどこから出ているのか?、目の動きをコントロールする不思議な力、人が死ぬ最大の要因、おならはなにでできているか?、「深部感覚」はすごい…。人体の構造は、美しくてよくできている――。外科医けいゆうとして、ブログ累計1000万PV超、Twitter(外科医けいゆう)アカウント9万人超のフォロワーを持つ著者が、人体の知識、医学の偉人の物語、ウイルスや細菌の発見やワクチン開発のエピソード、現代医療にまつわる意外な常識などを紹介し、人体の面白さ、医学の奥深さを伝える『すばらしい人体』が発刊された。坂井建雄氏(解剖学者、順天堂大学教授)「まだまだ人体は謎だらけである。本書は、人体と医学についてのさまざまな知見について、魅力的な話題を提供しながら読者を奥深い世界へと導く」と絶賛されている。今回は、著者が書き下ろした原稿をお届けする。
消化管の中は「汚い」
食道や胃、大腸などの食べ物の通り道は、一見すると「体の中」に思えるが、医学的には「体の外」と考えることもできる。口から肛門をつなぐ一本の道は、外界と完全に連続した空間だからだ。
トイレットペーパーの芯の内側が、外界と連続しているのと同じである。
実際、食べ物の通り道、すなわち消化管の中は、それ以外のエリアと違い、微生物学的には圧倒的に「汚い」。口の中や腸の中は、おびただしい数の細菌であふれている。便の臭いを思い出せば、さもありなん、である。
一方、消化管の壁を隔てて外側の空間、すなわち、正真正銘「体内」の空間は、無菌である。血液も骨も筋肉も全て、微生物学的には圧倒的に「きれい」なのだ。一方、ここに細菌が入り込むと、大変な事態を引き起こす。
例えば、大腸がんが大きくなり、底が深くなると、大腸に穴があいてしまうことがある。この状態を「穿孔(せんこう)」という。便がお腹の中の空間に広がり、重篤な腹膜炎を引き起こし、命に関わる事態に発展する。
本来無菌でなければならない空間(腹腔内)に細菌が侵入することは一大事なのだ。
膀胱炎と細菌
一方で、一見すると「汚い」と思われがちな尿は、微生物学的にはむしろ「きれい」だと言える。無菌である血液が腎臓でこしだされ、それが尿となって尿管をつたい、膀胱に溜まっているからだ。
健康な人なら、膀胱の中の尿は細菌のいない「きれいな」状態である。
だが、尿の出口である陰部は肛門と近い距離にあるため、腸内細菌をはじめ、感染症の原因となる微生物が多い。
これが膀胱へ逆流すると、やはり一大事である。膀胱炎などの感染症を引き起こすからだ。
私たちはよく「細菌と共生している」と言われる。
だが、本当に大事な内部のシステムは、日頃は細菌に侵されないよう厳重に守られているのだ。
(※本原稿はダイヤモンド・オンラインのための書き下ろしです)