日本のDXが進まないと言われて久しいが、一般企業以上に進んでいないのが行政のDXだ。行政のDXを妨げる要因はどこにあるのか。「役所は遅れている」と批判する前に、自治体を取り巻く閉塞感の正体と、私たち住民ができることを考えてみたい。(ノンフィクションライター 酒井真弓)
90年代のパソコン環境のままで、時が止まっている
前回、『役所のDXはなぜ難しい?行政にはびこる「絶対間違えられない」の呪縛』では、実例を踏まえ、行政のDXを妨げる要因に触れた。まずは、なぜ多くの自治体が、いまだに電話やFAX、紙をベースに業務を進めているのか考えてみたい。
1995年、Windows 95によってパソコン画面に色や絵が表示されるようになり、1996年にはInternet ExplorerやOutlook Expressが登場し、今に続くコミュニケーションの基礎ができあがった。自治体のIT環境やベースとなる考え方は、ほとんどこの時点で止まっている。この時期に決められたルール、導入した機器やソフトウエアが脈々と受け継がれているのだ。
市や町では、パソコンが1人1台支給されていないケースもある。支給されていたとしても、すぐにフリーズしてしまうような古いパソコンを大切に使い続けていたりする。ウェブ会議用のカメラが付いていないことも多く、ウェブ会議ツールのライセンスが部署ごとにしか発行されていなかったりもする。自治体とのウェブ会議では一つの画面に何人か収まっていることがあるのだが、そういう理由かもしれない。